- MGSにより、サウジアラムコはその豊富な種類のガス鉱床からバリューを生みだし、顧客へよりクリーンな電力を供給し、サウジアラビアの化学産業の発展に貢献
- 今やサウジアラビアのガス市場規模は世界第6位。サウジアラビア国内の電力事業における石油消費量を大幅に削減
- 当社のフレアリング強度はガス生産の1%未満、2030年までにルーティン・フレアガス排出量ゼロ達成を目標
サウジアラムコ史上最大のエネルギープロジェクトの一つであるマスター・ガス・システム(MGS)により、世界最大のガス市場が生まれ、サウジアラビアのエネルギーミックスはクリーン燃料へと転換しました。
1970年代、荒涼としたルブアルハリ砂漠からマニファ湾の浅瀬にわたるサウジアラビア東部州は、産業ブームに沸いていました。サウジアラムコの油田はサウジアラビア全土、そして世界へとパワーを供給し、経済成長の起爆剤となっていました。そびえ立つリグの先にほのかに輝く灯は「まるでギリシャ神話の昼夜燃え続ける永遠の炎のようだった」とある従業員は回想します。 しかしアラムコは、当社のみならずサウジアラビアにも変革をもらたすために、資源を有効利用してMGSによってフレアリングをなくしたのです。
フレアスタックは、石油・ガス産業の象徴的なイメージです。原油生産の過程で随伴ガスは油層から原油とともに産出されます。これまではこのガスは利用するには不経済と考えられていたため、完全燃焼、または焼却処分(フレアリング)されてきました。
MGSは、この随伴ガスをエネルギー源として回収・有効利用することで、大きな変革をもたらしました。国内の発電に石油の代替として随伴ガスが使われるようになるだけでなく、フレアスタックからのCO2排出量も削減されました。また、新たな非随伴型ガス田と非在来型ガス田の発見により、MGSを通じてガスを一般販売網に送り、顧客へと供給されています。
1970年代、サウジアラビアは大きな経済成長を遂げ、都市化・産業化がさらに加速、消費経済も拡大し、若者の雇用機会も増えました。石油化学製品などの新興産業では競争力のある原材料の調達が不可欠であったため、サウジアラビア政府は経済の多様化と同時に、国内の電力燃料として高コストの石油の使用を抑える取り組みを熱心に進めました。
随伴ガスの処理としてはフレアリングし続けることが一番簡単ですが、代わりにそのガスを低コストでよりクリーンな燃料として産業に利用します。そして1975年、アラムコは随伴ガスの採取・処理・加工・輸送するシステムを設計・開発し、運用を始めました。これにより、アラムコの生産中のガス田から随伴ガスを回収して市場に投入し、サウジアラビア全土に燃料や原料を供給することが可能となりました。
MGSは中東地域で行われている最も野心的なエンジニアリング・プロジェクトの一つとなりました。MGSは高度な機器やコンピュータ、建設手法、最先端テクノロジーを必要とするため、当時はその規模やコスト面で、当社にとっても前例のない巨大プロジェクトだったのです。シェドグムとウスマニヤのガスプラントはそれぞれ121ヘクタール(サッカー競技場約160個分)の広さで、世界最大級のガス処理設備を有しました。
アラムコの刊行誌「The Arabian Sun」は、当時の活気を伝えています。ウスマニヤ・ガスプラントの貯蔵庫は「巨大設備の下で唸り声をあげている」と表現され、「何千もの人々がケーブルを引き、アスファルトを敷き、クレーンを操作し、削岩機を手に持ち、時には5ハララ硬貨ほどの細さのパイプを、またある時はランドローバーほどの幅のパイプを組立て、溶接し、絶縁処理を行います」 と記されています。1980年8月27日発行のThe Arabian Sunには、1週間の紅茶消費量48,000杯など、労働者が消費した大量の食べ物や飲み物に関する詳細な記述まであります。
ベリー・ガスプラントは、1977年にカーリッド・ビン・アブドゥルアジーズ・アルサウード国王によって設立された最初の画期的な施設で、完全操業時には日量約80万バレルもの天然ガス液(NGL)を生産します。これは当時イタリアで一日に必要とされたエネルギー量の約半分に相当します。
1981年までには、すべての初期施設が機能していました。鈍く光るパイプで構成されたシステムによって生ガスをプラントに搬送し、そこで分離、精製します。タワーやコンプレッサーステーションがパイプライン内の圧力を十分に保ち、取り出したガス液の貯蔵や搬入設備、そして販売用ガスを市場に送り出すための長い幹線パイプラインは太陽の照り付ける敷地内で複雑に組まれています。
MGSは、1986年には海洋ガス田まで拡充され、アラムコは当時で日量20億標準立方フィート(scfd)の生産能力を有するまでになりました。
40年以上が経った現在、MGSによって当社はサウジアラビア国内で生産するガスを全て有効利用しています。主に電力業界や石油化学・精製、セメント・脱塩プラント、肥料・鉄鋼製造施設などで利用されています。
サウジアラビア国内のエネルギー需要の増加に伴い、アラムコはMGSを拡充し続けています。2001年に完成したハウイヤ・ガスプラントは、非随伴ガスの回収を石油生産とともに進めるのではなく、ガス層から直接採取するための初の専用施設として建設されました。ハラダやワシット、ファディリなど、その後に建設された施設と合わせ、サウジアラビアのガス資源開発に対する重要性が示されました。
次の段階では、MGSネットワークの総容量を日量125億標準立方フィート(イギリスとフランスを合わせた年間ガス消費量を上回る)まで増大させ、東西パイプライン回廊を821km延長し、新規ガスコンプレッションプラントも一基建設します。ガスの生産量が増加しているので、サウジアラビアは更なる収益のために天然ガスも輸出するかもしれません。
MGSでは、随伴ガスのフレアリングを最小限に抑制することで、開設から毎年1億メートルトン相当のCO2を削減しています。しかし、安全を確保するためのガス放出や、油層メンテナンスの際などの「ルーティン・フレアリング」は未だ必要です。アラムコはルーティン・フレアリング軽減において世界をリードしており、2030年までにルーティン・フレアガス排出量ゼロを目指しています。当社はすでに、業界で最も低い炭素強度を達成しています。
これは数々の先進的取り組みや、ルーティン・フレアガス排出量ゼロを可能にする様々な技術の開発による成果です。例えばフレアリング・モニタリングシステムは、第4次産業革命技術を活用し、フレアリングをリアルタイムで監視・最小化しています。当社では、メタンガスの放出を正確に測定し、対応するためにメタン漏出検出・修復プログラムを設置しました。このプログラムはフレアガス回収システムに搭載されており、当社のすべてのオペレーションで使用される機器に対する厳しい保守点検規準をクリアしています。
アラムコは近年、当社のエンジニア、マゼンM. マシュアが発明した画期的な無煙フレア技術の開発・導入を推進するべく、燃焼機器大手と提携しました。高圧エアアシストシステム(HPAAS)は、既存のフレアリングシステムに後付けが可能で、かつ短期間で導入できる高効率な技術です。今後さらなるエミッション削減に貢献すると期待されています
2015年、アラムコは世界銀行により、フレアリング強度が業界で最も低い企業の一社として認定されました。現在に至るまで、アラムコのフレアリング強度はガス生産量の1%未満を保っています。当社のフレア最小化プログラムはすでに、ルーティン・フレアガス排出量ゼロに向けて進んでいます。2019年11月には、世界銀行のイニシアティブ「Zero Routine Flaring by 2030」にも参加しました。この取り組みを通じて、石油・ガス産業におけるフレアリング最小化に向けたベストプラクティスを共有します。
MGSにより、今やサウジアラビアでは大規模なガス産業が成長しています。国内の発電に使用される石油量を削減し、経済面、CO2排出量削減の双方のメリットにも大きな効果をもたらしています。炭化水素チェーン全体で価値を創造し、アラムコを世界最大の統合石油・ガス企業にするという当社のダウンストリーム戦略も加速しています。MGS操業開始以来、アラムコは生産されるガスの約99%を回収し、CO2排出量も年間9,800万メートルトンを上回る量を削減してきました。
MGSは、砂漠から溶岩平、ヒジャズの荒々しい山々にいたるサウジアラビア国内のあらゆる場所に需要センターを拡充し、クリーンな燃料および原料を全土に供給します。何十年も前にMGSの良さを予見できた計画者たちのおかげで、サウジアラビアは国内で生産される炭化水素の価値を、最もサステナブルかつ責任ある方法で、長く未来にわたり最大化し続けます。