輸送技術

技術開発

将来の輸送分野におけるエミッションを削減する最大の機会は、今日の革新的な燃料配合と、高効率の内燃機関の開発から始まります。

内燃機関は、今後も長期にわたり自動車の大半で使用されることでしょう。そのため、内燃機関を可能な限り効率良いものとすることが最も効果的です。

サウジアラムコは、自社のグローバルリサーチセンターや自動車業界との協力のもと、内燃機関の改良と革新的な輸送技術の開発に取り組んでいます。それにより、世界のエネルギー消費者のエミッションは大幅に削減され、燃費も向上します。

既存の内燃機関を見直す

第1章

私たちは、高効率と低エミッションを同時に実現する内燃機関と、それを動かす燃料を開発するという、まさに画期的な方法で、排気ガス問題に取り組んでいます。

内燃機関は、少なくとも2040年までは自動車の大半で使用されるとの見方から、内燃機関の高効率化こそが、短中期的にはCO2削減に最も効果的だと考えています。

グローバルリサーチセンターの専門家や科学者は、自動車業界と協力し、これらの技術開発をさらに進めることで、世界の気候変動問題とモビリティの課題に取り組んでいます。

高効率・低エミッションの実現に向け、内燃機関には改良の余地が大いにあります。サウジアラムコの多様な輸送技術は、それらに存分に生かされるのです。

高効率・低エミッションの実現に向け、自動車のあらゆる部分を改良

ガソリン圧縮着火

第2章

圧縮着火エンジンは、現在の内燃機関では最も効率の良いエンジンです。しかし、その多くはディーゼル燃料を使用し、大量の煤と窒素酸化物(NOx)を排出するため、後処理が非常に厄介です。

ガソリン圧縮着火(Gasoline Compression Ignition: GCI)エンジンは、ディーゼルよりも着火しにくいガソリンを使用するため、燃焼前の混合気形成を改善する必要がある一方、CO2排出量を抑制できるという利点があります。

GCI技術によって、ガソリンエンジンの効率は大幅に向上し、CO2排出量は25%も減少します。つまり、エンジンからのCO2排出量を極限まで抑えながら、ディーゼルエンジン並みの効率を実現するのです。

また、最適化された低炭素燃料でこの技術を活用することにより、一般的なガソリンよりもさらに利点は大きくなります。

当社では、この技術の導入に向けて、独自の研究のほか、自動車メーカーや技術開発者、研究機関との提携により、さまざまな方法を模索しています。その一例として、当社はマツダと提携を結び、先進的な内燃機関と燃料の共同開発を通して、Well-to-Wheel(油井から車輪まで)のCO2排出量削減を目指しています。

サウジアラムコのGCI技術による内燃機関の効率性向上のメリット

長所を融合
GCIは、低エミッションというガソリンエンジンの長所と燃費の良いディーゼルエンジンの長所を融合しています。
ハイブリッド化
ハイブリッド化により、GCIのメリットはさらに拡大する可能性があります。
規制対応
GCIにより、自動車メーカーは規制や政策に対応できます。
様々な用途
GCIは、乗用車のみならず、大型の商用トラックにもメリットをもたらします。
投資削減
GCIは、既存のガソリンおよびディーゼルエンジンのアーキテクチャや燃料インフラを活用できる可能性があるため、投資額を大幅に抑えながら、エミッションを削減することができます。

タービュレント・ジェット・イグニッション 

第3章

サウジアラムコは、タービュレント・ジェットイグニッション (Turbulent Jet Ignition:TJI)を使用し、超希薄状態でガソリンを燃焼させる(ウルトラ・リーンバーン)エンジンを開発しています。TJIは、着火プロセスを大幅に強化し、効率向上とエミッション削減を実現する技術です。

この技術により、空気や排ガスの比率を高め燃料と空気の混合気が希薄化されても、安定した燃焼が可能になります。

TJIではまず、主燃焼室とは別の小さな窪み状の副燃焼室で少量の空気と燃料を予備混合させます。次に、高温のラジカルが主燃料室に噴射され、従来の点火プラグよりも広範囲に点火源を分配します。

私たちは、能動的アプローチと受動的アプローチの2つのポイントを踏まえて、この画期的な燃焼方法を開発しました。 

 

2つのアプローチ

能動的:

副燃焼室には、点火プラグと二次燃料インジェクターが配置されています。このインジェクターから噴射された少量の燃料に点火プラグで着火し、ラジカルのジェット乱流を生み出して、これが主燃焼室の燃料混合気に着火します。 

受動的:

このアプローチでは、ピストンの設計と噴射の方法により、少量の空気と燃料を副燃焼室に導いて点火プラグで着火させるため、二次燃料インジェクターを必要としません。 

この2つのアプローチは、使用する装置は異なりますが、どちらも効率性を大幅に向上し、エミッションを削減します。

この技術は、複数の技術プロバイダーが動作確認に成功しており、サウジアラムコは現在、2020年の発表に向けて、最新のガソリン車へのTJI導入を進めています。車両への導入が成功すれば、近い将来、商業化されることが期待されます。 

 

サウジアラムコのTJI技術による内燃機関の効率性向上のメリット

互換性
TJIにより、当社のGCI技術をより幅広い回転数(rpm)とトルクの組み合わせで活用できるようになれば、GCIのメリットはさらに拡大します。
優れたコスト効率
装置のアーキテクチャがシンプルなため、既存のエンジン装置へコスト効率よく導入できます。
排出量抑制
従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンに比べて、燃料効率を高め、汚染物質排出量を抑制する可能性があります。
規制対応
自動車メーカーは、TJIの利用により、規制や政策に対応することができます。

対向ピストンエンジン

第4章

対向ピストンエンジンは、駆動力と効率性を大幅に高める有望な代替アーキテクチャを提供します。

このエンジンは、1気筒に対して2つのピストンを使用し、対向して往復運動を行います。この設計により摩擦と熱損失を大幅に低下し、効率を向上して、エミッションを削減します。

対向ピストンエンジンは用途の広いソリューションであり、スパーク着火にも圧縮着火にも対応するよう構成が可能で、ガソリン燃料とディーゼル燃料のどちらでも駆動します。このアーキテクチャを当社の他の技術と組み合わせることにより、効率性をさらに向上させ、エミッションをさらに削減できる可能性があります。

私たちは、アキーテスパワー(Achates Power)やINNエンジン(INNEngine)などの技術開発企業と提携し、さまざまな方法による対向ピストンエンジンの開発を模索しています。

アキーテスパワー社

アキーテスパワー(Achates Power)は、シリンダーと2つのクランクシャフトを直列に配置した2ストローク対向ピストンエンジンを開発しました。当社は、アキーテスパワーと提携し、このエンジンの3気筒ガソリン圧縮着火(GCI)バージョンの開発に取り組んでいます。目標は、最大50%の燃費向上と、将来の排出基準への対応です。 

INNエンジン

INNエンジン(INN Engine)は、トルクをトランスミッションに伝達する中央のシャフトの周囲に2つのピストンを配置した、2ストローク対向ピストン設計での開発を行っています。この配置により、エンジンのコンパクト化が可能になります。この設計では、1気筒ごと、エンジンの回転ごとに燃焼が2回生じるため、従来の4ストロークエンジンの4倍の燃焼が生じ、より高い出力密度を実現します。次のステップでは、INNエンジンと協力し、この技術のさらなる開発を進めていく計画です。 

 

サウジアラムコの対向ピストンエンジン技術によるエンジン設計改良のメリット

コンパクトな設計
コンパクトな設計のため、重量も容積も削減できます。
適合性
このソリューションは、既存の市販燃料を利用できます。
効率性
対向ピストンエンジン技術は、ディーゼルエンジンを上回る効率を達成する可能性があります。
低コスト
対向ピストンエンジンは、部品数が少なく、複雑度が低下します。バルブトレインとシリンダーヘッドのないシンプルな構造により、製造コストを抑えられる可能性があります。

モバイルカーボンキャプチャー

第5章

モバイルカーボンキャプチャー(MCC)は、輸送分野のCO2削減を可能にする革新的な技術です。

サウジアラムコの科学者によって9年以上にわたり改良されてきたこの最新技術により、自動車排出ガスに含まれるCO2を最大25%回収することができます。回収されたCO2は自動車に貯留され、自動車から回収された後は、さまざまな産業および商業用途に使用することが可能です。

MCC技術は、フォードF-250小型トラックや中型乗用車トヨタカムリなどでの実証実験に成功しています。当社チームは先般、この技術をクラス8の大型トラックへ導入する実証実験にも着手しています。MCCとGCIや他の効率性向上技術とを組み合わせることにより、トラックのCO2排出量50%削減を目指しています。

MCCは、貨物輸送に伴うエミッションを大幅に削減する可能性を秘めており、キャプティブフリート車両に適用された場合は特に有効性が高くなります。

モバイルカーボンキャプチャー技術のメリット

50%抑制
この技術によってCO2排出量の50%抑制を目指しています。
貨物輸送におけるCO2排出
MCCにより、貨物輸送に伴うエミッションが大幅に削減される可能性があります。
CO2削減
この技術を他の技術と併用することで、さらなるCO2排出量削減が期待されます。