
モバイルカーボンキャプチャー
- 当社の技術で低炭素型輸送をすべての人々に
- 2010年にモバイルカーボンキャプチャーの開発を開始
- CO2を発生源で回収してエンジンの排出量を削減
- 乗用車とピックアップトラックは実証済み、大型トラックは検証中、次のステップは海上輸送
140年以上にわたり、内燃機関は車やトラック、船舶、飛行機、鉄道列車の動力源として、何十億もの人々や商品、資材などの輸送を支えてきました。今後はさらに多くの国と地域が貧困を脱し、エネルギー消費も増加が見込まれることから、内燃機関の役割はこれからも変わらないでしょう。
内燃機関で走る車両の数は、2040年には世界で17億台に達する見込みです。これは、天然資源と自然環境の両面、特に二酸化炭素(CO2)の排出と喫緊のカーボンニュートラル達成目標において、大きな課題となっています。
では、排出量削減をリーズナブルに、さらに車両性能への影響を極力抑えつつ実現するにはどうしたら良いでしょうか。

まずはエンジンの効率向上
車両の効率向上には、いくつかの方法があります。
例えば、車体の軽量化や空気抵抗の低減、エンジン内の摩擦低減などがあり、それぞれ一定の効果があります。しかし当社が目指すのは、CO2を大幅に削減する飛躍的な効率向上です。
アイデアを形に
CO2を発生源で回収する技術は、すでに発電所などの工業分野で活用されています。しかし、移動体での回収には、物理的な制約や、限られた車載スペース、さらには外的要因として移動中の気流の変化など、様々な課題があります。
更に、排気ガスからCO2を分離するのに必要なエネルギーをどうやって生み出すか、という問題もあります。追加の燃料消費は使用者のコストがかさみ、CO2排出量も増加してしまいます。


課題解決のカギは「廃棄」エネルギーの再利用
通常、エンジンによって燃料の潜在エネルギーが推進力に変換される割合は25%~40%です。残りのエネルギーは、ラジエーターと排気ガス処理を通じて熱として失われます。そこで当社が開発したのが、画期的なエネルギー回収システムです。これは、廃熱をエネルギーに変換し、CO2回収装置やコンプレッサーの動力に利用するものです。
当社のCO2回収システムでは、排ガスを取り込み溶媒に吸収させてCO2を回収し、残りの窒素、水蒸気、残渣CO2は放出します。回収したCO2は圧縮し、車両に搭載したタンク内に貯留します。
4つのR
大気中のCO2除去を表すRemoveは、Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクル)とともに、地球と人間とのバランス回復を目指す循環型炭素経済の4つの「R」を構成しています。
回収したCO2は、安全に取り出しを行い、トラックまたはパイプラインで輸送します。現地の状況によって、地中に貯留するか、様々な商業・産業用途に用います。
例えば、当社では、再生可能エネルギーを活用してCO2を燃料に再転換したり、セメントの養生に利用するなどの革新的方法も開発中です。


実現可能性のある試作品の開発
2010年、当社は様々なCO2回収方法を模索し始めました。回収方法には化学吸収法、固体吸収法、深冷分離法、膜分離法、酸素燃焼法などがありますが、実現可能性のある試作品作りでは、固体吸収法を採用しました。この方法はサイズや柔軟性の面でデメリットがあるものの、翌年の2011年にはフォードF-250ピックアップ・トラックへのCO2回収システム導入に成功し、CO2排出量の1割回収を実現しました。
こうして当社のアイデアが実証されました。次なる課題はこのシステムの小型化およびエネルギー効率の向上でした。
次の段階:乗用車への適用
意外に思うかも知れませんが、エネルギー効率は大型エンジンよりも小型エンジンの方が低くなります。小型エンジンは排熱量がより多いため、CO2回収・圧縮に利用できるエネルギーもより多くあることになります。
2013年には、CO2回収を化学吸収法(炭酸カリウム溶液)に切り替えたことにより、システム全体のサイズを8分の1にまで縮小でき、トヨタカムリのシャシの下に大部分を組み入れることに成功しました。その結果、車両走行中にCO2排出量の30%を回収するという、従来の3倍もの回収率を達成しました。


大型トラックへの適用
当社はまた、このモバイルカーボンキャプチャー技術が貨物輸送業においても大いに力を発揮すると考えました。特にトラックは必ず集配所へ戻るため、回収CO2の取り出しがより容易に行えます。
2019年には、ボルボクラス8大型トラックへのシステム搭載検討を始めました。乗用車のプロトタイプと同じ原理ですが、より大型のシステムがキャブとトレーラーの間に搭載されています。アミノ酸溶液を利用する新たな吸収法を開発し、エンジンからエネルギーを回収するためターボコンパウンドエンジンを採用しました。これにより、トラック排気ガスからCO2排出量の4割を回収するという快挙を成し遂げました。

未来は海運でのCO2回収
海上輸送によるCO2排出量は、世界全体の2.1%に上ると推定されています。船舶は自動車よりもはるかに大量の燃料を消費しますが、CO2回収技術の仕組みは同じです。つまり、規模を大きくすればよいのです。
国際海事機関(IMO)は、2050年までに温室効果ガス排出量を2008年の5割以上削減することを目標としています。そして当社は、この技術を大型船舶に導入する方法を探求すべく、業界のパートナーたちとともに一歩を踏み出しました。