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CERAWeek 2025におけるアミン・ナセルの挨拶

アラムコ社長兼CEO アミン・ナセル

ニュース|ヒューストン |

ダンさん、ありがとうございます。皆さま、おはようございます。

ヒューストンにおけるCERAWeekに参加できますことを大変うれしく思います。今年は一段と熱気に満ちています。歴史が我々の業界に再び追い風になりつつあるのを感じます。

本日はその背景についてお話ししたいと思います。

十年来、業界の他のリーダーたちと同様、私は現在のエネルギー移行計画に内在する欠陥を指摘する責任を、ひしひしと感じてきておりました。この責任感は、私たちの顧客、そして世界に対する深いコミットメント からくるものです。また、温室効果ガスの削減を真剣に目指し、サステナビリティ を重視する姿勢の表れでもあります。

しかし、会場の皆さまの多くがそうであるように、私は根っからのエンジニアです。何かの計画を評価する際には、インプットとアウトプットを基本に考えます。アメリカ式に言えば「bang for the buck」、つまりコスパがいいかどうかということになります。インプット面ははっきりしていて、世界は移行関連でほぼ10兆ドルを費やし、20年間取り組んできました。

そして期待されるアウトプットを、揺るぎない自信をもって掲げてきました。移行にとって重要かつ、真に競争力のあるテクノロジー が数多くもたらされるであろうと。 そして、従来型エネルギーをいち早く過去のものにしてしまえば、より安価で安定性のあるサステナブルな代替エネルギーの新たな世界がやってくるだろうと。

そして幅広い世界的協働を通じて、あらゆる人にエネルギーがもたらされ、平等な世界が実現するだろうと。こうした約束は実現不可能だと私たちの多くは考えてきましたが、石油・ガス産業はすでに議論の場から排斥されていたのです。不毛なエネルギー移行の議論における欠陥を露わにし、集団浅慮が実世界に与える影響の大きさについて説得するのに10年かかりました。

コストを例に挙げますと、すでに10兆ドルを費やしたのですが、推定によると世界の気候関連対策には、毎年さらに6兆から8兆ドルという巨額のコストが必要だというのです。それでも、代替エネルギーが十分整っていたならば、従来型エネルギー利用を減らす努力を最大限に推し進めた者が現れ、世界の羨望の的となったことでしょう。


ところが現実は違います。エネルギーがより手頃に、また安定して得られる世界が当然来るのだと信じていた者は、厳しい現実に目を覚まさざるをえなくなっています。ヨーロッパでは、エネルギーコストが5年前の約2倍に膨らみ、アメリカや中国よりも3倍から4倍多く支出しています。

中には、企業が競争力維持のために他国へ移転したり国内操業を閉鎖したりすることで産業基盤や雇用の弱体化が進んでいる国もあります。また、世界の最も裕福な人口10億人が、世界のエネルギー消費の40%を占めているという別の現実があります。

しかし、エネルギー需要の増加分のほとんどは、最も貧しい人口層の70億人が豊かになろうとする営みによるものです。しかし、エネルギー移行への投資が彼らにもたらす恩恵は、ほんの15%にすぎず、一方技術移転やキャパシティビルディング のレベルは到底十分とは言えません。

さらに、核となる移行技術は真に競争力があり、急速に開発が進んでいるというフィクションがありました。グリーン水素 がその一例です。これは2030年までに1kg当たりの生産単価1ドルを実現するというものでした。

しかし、生産コストだけを見ても、現在1kg当たり4ドルから12ドルと著しい幅があります。石油で言えば1バレル当たり200ドルから600ドルというとんでもない額です。

一方、超長期エネルギー貯蔵を見ると、技術はまだ黎明期にあり、コストがかかるうえ、投資回収期は15年から40年先です。ですから、安定性の低い再生可能エネルギーに過度に依存し、十分なバックアップ やグリッド規模 の長期エネルギー貯蔵が存在しない状況では、エネルギーの切れ目ない安定供給は難題といえます。

また、念頭に置かなければならないのは、2050年までに世界の電力消費が倍増すると見込まれている点です。エアコンの利用や電化が進み、AIやデータセンター が増えることで、需要を押し上げます。

石油の世界供給量のうち60%を消費している産業輸送や重工業においては、代替エネルギーの効力はほとんどありません。電気自動車ですら、消費者が必要性よりも選択や価格帯を重視するがため、後退の兆しを見せています。

そのため、自動車メーカーはコスト効率の高いハイブリッドや高効率な内燃機関 の自動車に舵を切りなおすことを余儀なくされています。電気自動車の普及率が4%、風力・太陽光電力も世界的発電量の4%未満ということは、100マイルのコースに例えれば、まだわずか4マイルしか進んでいないことになります。

なんといっても、エネルギー移行の最も大きな神話は、従来型エネルギーを完全に、しかも短期間で代替エネルギーに置き換えられると信じたことです。しかし、そのようなエネルギー源の切り替えは、約150年前に鯨油の需要が崩壊して以来ないのです。


ここアメリカ合衆国では、一次エネルギーの80%を炭化水素で賄っています。中国では90%、EU諸国でも70%以上となっています。また、世界における炭化水素の消費量は、30年前よりもはるかに増大しています。今日の消費量は、石油換算で1日当たり約1億バレルにのぼります。

木や伝統的なバイオマスなどの燃料ですら、石炭の普及やその後石油、ガスに取って代わられると考えられてきましたが、この200年来その消費はほとんど減っていません。そういうことですから、来年は何々がピークを迎えるなどといった予測に、私は耳を貸しません。これまでも同じことをずっと繰り返してきているのですから。

新しいエネルギー源は、現在のエネルギー構成を豊かにし、従来型エネルギー源を補完するものです。これまでのエネルギー源に取って代わるものではありません。十分に発達していない代替エネルギーに時期尚早に移行しようとする今の進め方が、自らの首を絞めるものだという理由がここにあります。

新しいエネルギー源はまだまだ需要の成長を満たせるものではありません。にもかかわらず、そのギャップを埋めるために必要となる実績のあるエネルギー源が悪者にされ、見放されてきたのです。これでは、ユートピアではなくディストピアへ一直線です。つまり、この20年間に費やした10兆ドルの実質的な成果は、前進はせずに記録的な量の石炭を消費したにすぎません。

これでは、ミッション達成には程遠い。たとえて言えば、現在の計画が功を奏する可能性よりも、私の次にエルビス・プレスリーが登壇する可能性のほうが高いと言えなくもないでしょう。そして、エネルギー移行の実際に対する大衆の不満が、国、企業、消費者におしなべて波のように押し寄せています。

ですから、増大するエネルギー需要の現実と新たなエネルギーの追加を正しく反映した、新たな未来のエネルギーモデルが喫緊の課題となっています。これに対し、私は柱となる三つの方針をベースにすべきと考えます。

第一に、高まりつつあるエネルギー需要を満たすうえで、すべてのエネルギー源がバランスよく、包括的にその役割を果たすこと。これはもちろん、新エネルギーと代替エネルギーを含みます。しかしあくまで、従来型エネルギーを補完するものであり、置き換えるものではありません。ですから、あらゆるエネルギー源に対して投資が必要です。

アラムコは昨年、自らの役目を果たすべく、従来型エネルギーおよびいくつかの再生可能エネルギープロジェクトに対し500億ドル以上を投資しました。例えば当社では、2030年までに太陽光および風力発電で最大12ギガワットに相当する投資を目標に設定しています。また、そうした投資資金をさらに世界的に活用するには、広範囲にわたる規制緩和や偏重のない融資を実現するための金融機関に対するインセンティブ が必要です。

第二に、このモデルは当初の約束どおり、先進国、開発途上国のいずれのニーズにも同じように応えるものでなければなりません。特に技術に関して、この点は重要です。

第三のきわめて重要な方針は、実のある成果を確実に出せるものでなければならないという点です。


誤解のないように申し上げますが、これは気候問題に対する世界の目標から後退するというのではありません。温室効果ガスの排出削減は、最優先課題として持ち続けます。そのために効率改善、省エネ化の技術開発を優先し、従来型エネルギーのガス排出量をさらに減らします。その点、人工知能(AI)が大きな役割を果たすでしょう。

しかし、エネルギーの未来にとって重要なのはサステナビリティだけではありません。安全保障、そして価格安定も同様に重要です。あらゆるエネルギー源がひとつのチームのように調和的に活躍することで、実のある結果を生み出します。

皆さま、現状のエネルギー移行計画は世界に多くの約束をしてきました。それはまるで、エネルギーにおける黄金郷エル・ドラードを約束するようなものでした。それを追い求めても、実現の可能性はありません。

心を鬼にして申し上げたいのは、これ以上失敗を重ねるのはやめるべきだということです。そして、夢のような移行神話から覚めたとき、方向転換による歴史的な機会が私たちを待っているのです。

ですから、これから世界が真に望むエネルギーの未来を形作っていこうではありませんか。気候変動に関する目標を含め、実際に到達可能なエネルギーの未来を。そして、歴史の風向きが我々の追い風となりつつある今、この業界の豊富な経験と実績を活かし、豊かで安価、かつ持続可能な万民のためのエネルギーによる真の黄金時代を実現させましょう。

ご清聴に感謝します。

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Email: media.inquiries@aramco.com

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