革新的フレア技術の開発

イノベーションと産業が結びつく時


    • アラムコは燃焼機器大手と提携し、サウジ国内における革新的な無煙フレア技術の開発・導入を推進
    • 無煙フレアを実現する高圧エアアシストシステム(HPAAS)は、アラムコのエンジニア、マゼン M. マシュア(Mazen M. Mashour)によって発明
    • 発明からローカリゼーションにわたる、サウジアラムコとサウジアラビアにとってのサクセスストーリー

Rebecca Wallace |

20年前、アラムコは無煙フレアに関する新技術の特許を取得しました。無煙フレアは従来のガスフレアよりもサステナブルであり、今後すべてのコンビナートシステムで導入されるかもしれません。発明者であるエンジニアのマゼン M. マシュアは、何年もかけて技術開発やプロトタイプのテスト運転・調整を行い、ついに実用化にこぎつけました。この新技術こそが高圧エアアシストシステム(HPAAS)です。

これは単なる技術開発をはるかに超えたものです。アラムコの国内産業奨励プログラム(In-Kingdom Total Value add: iktva)を通じた20年のサクセスストーリーです。iktvaプログラムは、製造業セクターのローカリゼーションを促進し、様々な地域経済への支援により国際競争力を高め、サウジアラビアのさらなる発展を目指すものです。


マスター・ガス・システムを構成するベリー・ガスプラントでは、随伴ガスを採取し、国内エネルギー源として有効利用しています。それでも一部のガスは可能な限りサステナブルかつ効率的な方法で燃焼処理する必要があり、HPAASはそれを解決する画期的な発明と期待されています。

効率的なフレアリングの必要性

油田といえば、掘削リグから立ち上る炎をイメージする方も多いでしょう。原油生産の過程で生じる随伴ガスは、貯留層から原油とともに地上へと運ばれたのち、これまでは不要物として燃焼処分(フレアリング)されてきました。

アラムコでは、1977年よりマスター・ガス・システムの一環として、この随伴ガスを採取・処理し、発電など国内エネルギー源として有効利用しています。当社はすでに、フレアリングによるガス排出量を限りなくゼロに近づけることに成功し、石油業界で最も低い炭素強度を達成しています。しかし、産油プロセスで蓄積する可燃性ガスの「制御バルブ」的役割として、ある一定のフレアリングは安全上必要であり、可能な限り高効率でクリーンなフレアスタックが求められます。

エネルギー効率化に対するアラムコのコミットメントの一部として、当社ではすでに新規の設備にこの無煙技術を導入し、さらに既存のフレアリングシステムも順次入れ替える計画です。当初、スチーム圧入や音速フレア式などあらゆる無煙フレア技術を総合的に評価し、後付けが可能かどうかや効率性など様々な検証が行われたものの、費用が高額であったり、複雑すぎたり、既存のシステムやスチーム利用不可の施設には導入できないなどの問題がありました。

何百基ものフレアシステムが稼働するアラムコでは、より優れたソリューションが求められることは明白でした。


エミッション削減につながる画期的ソリューション

アラムコのエンジニアであるマシュアは、新技術の設計を任され、その後HPAASを発明、特許取得に至りました。この技術は、プラントの空気システムまたはサイトに設置された専用のコンプレッサーから供給される高圧の空気を利用します。高圧の空気は空気分岐リングを通り、防風シールドに搭載されたジェットからフレアに噴射されることにより、無煙フレアリングに必要な乱気流を生み出します。この増加した気流が燃える炎の温度を高め、これまで焼却し切れずに大気中に放出されてきた不純物を完全に燃焼させるのです。

この技術は、短期間で、容易に、かつ低コストで導入できます。施工に要する期間は平均わずか3日間で、施工時には安全上プラントの運転を完全に停止しなければならないことから、経済的にも重要な要素となります。さらに特筆すべきはその頑丈さです。アラムコのフレアシステムの多くは遠隔地にあるため、最小限の保守管理で長期間稼働させる必要があるのです。この発明は、エミッション削減につながる画期的なソリューションとして、2006年のジュネーブ国際発明展で金賞を受賞しました。

HPAASのクローズアップ。空気分岐リングに空気を送り込み、ジェットを通じて無煙フレアリングに必要な乱気流を生み出します。

HPAASの利点

後付け可能で短期間で容易に導入できる
頑丈な設計
様々な環境条件に適応
既存のフレアシステムへの影響が少ない
導入・運転コストが低い

iktvaサクセスストーリー

HPAASは2000年6月にシャイバ油田の施設に初めて導入され、続いてアラムコ南部地域無煙フレアプロジェクトとして29ヶ所の大規模拠点でアップグレードが進められました。このプロジェクトでは、世界的な燃焼機器大手のZeeco社と提携し、HPAASのフレアチップ、パイロット、点火システムを製作しました。またサウジアラビアの建設会社Al-Rushaid社が給気システムの設計・施工を担当しました。

HPAASは、既存システムへの後付けが容易で、少ない空気量で燃焼でき、さらに短期間で導入できることから、他の技術を上回る成功事例となりました。また、サウジアラビア国内の他の施設でもアップグレードを進め、さらにこの技術を世界に展開していくという意欲的な計画のもと、アラムコはZeeco社と提携し、サウジアラビア初の燃焼機器専門の会社を設立しました。この会社を拠点として、中東地域とそれ以外の地域でもサービスを拡充します。マシュアによるこの発明は現在、サウジアラビア国内において設計、製造、販売が進められています。

imag
ダンマン第2工業地区の専用施設で製造が進められるHPAAS。アラムコと世界的燃焼機器大手Zeeco社との提携、そしてiktvaによって、この大発明はさらに発展します。

Zeeco社との提携は、当社のiktva(国内産業奨励プログラム)がもたらした大きな成果です。アラムコの産業開発・戦略的調達部門長、アブドゥッラ B. アルサーリーは次のように述べています。「iktvaは雇用を創出し、投資を促進し、さらに最先端技術を広めて堅固な地域エコシステムを作り出しました」

アラムコはZeeco社と協力してローカリゼーションに取り組み、ついにダンマン第2工業地区内に広さ約500平方メートルのプラントと製造施設を設立しました。アルサーリーは次のように述べています。「当社の事業にサプライヤーの協力は欠かせません。Zeeco社がサウジアラビアで初めてローカリゼーションを推進し、機器製造を行っていることを大変嬉しく思います」 Zeeco社は地元サプライヤーから、圧力容器や配管スプール、制御盤、ケーブルなど、機器製造に必要な部品や原材料を調達します。

HPAASは、発明から産業のローカリゼーションにわたる、サウジアラムコとサウジアラビアにとってのサクセスストーリーです。


「iktvaは雇用を創出し、投資を促進し、さらに最先端技術を広めて堅固な地域エコシステムを作り出しました」

産業開発・戦略的調達部門長 アブドゥッラ B. アルサーリー