- 最新コンピューティング技術を活用したビッグデータでさらなる効率化を実現
- これにより油田現場でのオペレーションやメンテナンスを最適化
- データに基づく予測により、アラムコはエネルギー使用量を削減し、フレアリングを最小限に抑制
アラムコは新しいテクノロジーの導入によって、どのようにエネルギー強度を低減し、排出量を削減しているのか
大量データ、いわゆるビッグデータの取り込みとその解析によって、複雑な問題への抜本的なソリューションが生み出されています。当社はこのテクノロジーにより、膨大な量の情報を掘り下げてそのパターンをつかみ、次に何が起きるかを予測します。
ビッグデータの活用で、天候を予測し、サイバー犯罪を防止し、新薬を開発できます。ビッグデータは、機械学習や人工知能(AI)と並び、様々な産業のオペレーションに変革をもたらしています。
もちろん、石油・ガス産業でもビッグデータによって多大なる機会が示されています。既に作業効率や生産性が大きく向上し、排出量が削減され、あらゆるレベルのオペレーションが改善されています。同様のテクノロジーによりエネルギー生産チェーン全体の飛躍的な進歩が可能となるでしょう。
具体的に説明しましょう。
ダーランにあるアラムコの4IRセンター(4IRC)では、データ・サイエンティストのチームが複雑なデータ解析を設計・実行しています。この先進的な研究・オペレーションハブには、様々なデジタルテクノロジーが集約されています。
4IRCは2,500㎡のオフィススペースを有します。訪問者はまずエントランスで「Vレセプショニスト」と呼ばれるハイパーリアル・ホログラムに迎えられ、安全規則についての説明を受けます。センター内をさらに進むと、周囲の機器が作動し、壁に設置された279㎡のビデオ・ディスプレイに映像が映し出します。コの字型のディスプレイ・スクリーンに囲まれたセンターの心臓部であるAIハブは、驚異的なスピードのアルゴリズムでデータを高速処理します。
4IRCでは毎日、サウジアラビア全土にわたるアラムコのオペレーションに関する50億以上のデータポイントに加え、数百万件もの設計図面、検査・メンテナンスデータにアクセスしています。このビッグデータに合わせ、さらに4IRCが誇るコンピューティング技術と最先端のAI・機械学習ツールにより、収集したビッグデータを実施可能なインサイトに変換することで、アセットのパフォーマンスや安全性、信頼性の評価・向上に役立てています。
当社のSWIM-R(浅海域検査・監視ロボット)や自社開発の水中用ロボットアームは、当社が導入しているその他の最先端ロボット・テクノロジーと連携しています。ビッグデータを利用して、これらのマシンは大気中、陸地、海中におけるメタンの検知や在庫状況の追跡、密閉空間への人の立ち入りを最小限にしたり、海底資源の調査などを行っています。
4IRCを管理する先進的プロセス・ソリューション部門の責任者であるアハメド・アルオスマンは、次のように述べています。「このセンターでは、才能ある若手社員が集結して、新たなビジネスチャンスや4IRテクノロジーの革新的な利用法を探り、さらに卓越性の追求や、当社にとっての価値創造につながる様々なソリューションを開発することで、当社のデジタル・シンクタンクとしての重要な役割を担っています」
「このセンターでは、才能ある若手社員が集結して、新たなビジネスチャンスや4IRテクノロジーの革新的な利用法を探り、さらに卓越性の追求や、当社にとっての価値創造につながる様々なソリューションを開発することで、当社のデジタル・シンクタンクとしての重要な役割を担っています」
先進的プロセス・ソリューション部門責任者、アハメド・アルオスマン
アラムコは、世界最大規模のエネルギー・インフラを誇ります。それは地球上で最も気温が高い地域でも運用されています。
こうした環境は、膨大な量のデータを扱う解析システムにとって大きな課題です。夏季の高温によりパイプラインやプラント内の石油が揮発しやすくなり、モニタリングや管理がより困難になるためです。
また、このようなシステムは「既製品」というわけにはいきません。 個別の業務内容やアセットによって慎重に調整しなければならないのです。
「以前は、データ収集と解析は、施設をモニタリングする専門家によって手作業で行われていました。また各プラントのデータはそれぞれの現場で解析されていたため、全体のパフォーマンス向上に結びつけるには限界がありました」と、ミッドストリーム施設でのエネルギー使用管理を担当するアラア・アラハメドは述べています。「しかしビッグデータ・システムの構築は、経験豊富なエンジニアと現場で緊密に連携してこそ可能でした。エンジニアたちは各プラントの設備や状況を熟知していたからです」
アラアによれば、ビッグデータ・システム導入への第一ステップは、全施設の毎日300万データポイントにものぼる莫大な情報をデジタル保存することでした。その後情報はすべて処理され、現在モニタリングされています。
このビッグデータ・プロジェクトを進める4IRCチームを率いるアハメド・アルムルヒムは、この新システムの最大の強みはリアルタイム操作であると考えています。
「もし今どこかの箇所で異常値が出れば、その施設に自動的かつ即座に通知されます。これにより迅速な対応が可能となり、最適なパフォーマンスが維持されるのです」と彼は述べます。
彼のチームが開発したアルゴリズムを用いて、30以上の拠点と50以上の関連施設のすべてにおいて、エネルギー強度やフレアリングによる排出量、原油品質に関するデータに基づくエネルギー消費管理および基準値設定が行われています。
ビッグデータは、私たちに大きな恩恵をもたらします。例えばより優れたパフォーマンス行うプラントを容易に特定し、その改善されたオペレーションを全社に導入することができます。
パイプライン内や処理施設での圧力の蓄積により発生する炭化水素ガスの排出・燃焼であるフレアリングも、ビッグデータを活用して管理しています。このテクノロジーによって、担当エンジニアはシステム全体を瞬時に目視によって把握できるのです。フレアリングが行われている場所をすばやく特定し、可能な解決策を提示できるのです。
これまで、ビッグデータの活用によって、2010年以降のフレアリングによる排出量は50%削減されました。アラムコのフレアリング強度は、ガス生産の1%未満を維持しています。
そして、ビッグデータは将来を見通すこともできます。
アラムコでフレアリング最小化プロジェクトを担当するユセフ・アルフィは、1万8,000のデータソースを利用してフレアリングの監視・予測を行っています。
「ディープ・ラーニングなど様々なテクノロジーとビッグデータを用いて構築されたモデルと、リアルタイムのデータを比較することで、このシステムはフレアリング基準値を上回る時点を予測し、事前に調整することができます」と彼は述べています。
ユセフによれば、このシステムは慎重な解析に基づいて、将来の業務目標を設定することもできるということです。
サウジアラムコのデータ科学者と専門家のチームは、ビッグデータをより効果的に活用する方法を追求し続けています。各施設に関する詳細なコンピュータ・シミュレーションもその一つです。また、これらのモデルを使って、専門家が様々なシナリオをバーチャルでテストすることもできます。
たとえば予測保守は、ある機器の初回の作動をモデリングすることでその機器が故障する時期を予測すると共に、将来のパフォーマンスを予測します。それにより部品の摩耗前の交換が可能となります。(こうした予測モデルはデジタル・ツインもしくはバーチャル・ツインと呼ばれ、製造業でも広く活用されています)
またアラムコは、当社のすべての油田において、電動水中ポンプ(ESP)の意思決定を自動化しています。以前は、水中ポンプで原油を汲み上げる速度は手動で調整されていました。つまり、作業員が油井現場まで行き、手作業で速度調節を行っていたのです。現在400以上もの井戸を有するクライス油田では、処方的分析に基づき速度を自動的に調整して最適なオペレーション状態を維持し、エネルギー消費量を最大20%も削減しています。
予測モデリングとデータ収集・解析の自動化により、エネルギー強度と炭素強度の低減や安全管理・運用効率の改善、全体的なコスト削減など大きな効果が得られています。
しかし、これらはまだテクノロジーが持つ可能性の一部にすぎません。
新たなデジタル油田から得られたビッグデータは、まったく新しいエネルギー・チェーンを生み出すでしょう。それは効率的な管理と自動化を可能にし、コンピューティング能力の向上に伴うテクノロジーの進歩がもたらす恩恵の一つとなるでしょう。
ビッグデータは新たな石油とも言われます。つまり、今は閉じこめられており、採り出す価値のある資源なのです。そしてAIとはさらなる発展への動力となる、新たな電力とみなせるのです。4IRCにはその双方が設置されており、先端テクノロジーを活用して業界での運用を最適な方向へと導くための新たな知見を得ています。こうした新しい情報によって、オペレーション全体が日々、よりスマートかつ環境にやさしい方法で行われています。
ビッグデータがビッグインサイトをもたらすのです。