第24回世界石油会議でのアミン・ナセルのスピーチ

アラムコ社長兼CEO アミン・ナセル

殿下、閣下、ご臨席の貴賓の皆様、おはようございます。

まず、このようにカルガリーで温かくおもてなしくださったカナダの皆様に、深く感謝の意を表します。また、ペドロの温かい言葉に感謝するとともに、私たちの産業をカナダのエネルギーの中心地に一世代ぶりに復活させたことに対し、彼と彼のチームを祝福したいと思います。

そしてWPCのデューハースト賞を受賞することができて本当に光栄です。家族や友人たち、先生方や指導者の皆様、仲間やパートナー企業の支えがなければ、このような評価をいただくことは不可能だったでしょう。

また、本日この場にいらっしゃるエネルギー相のアブドルアジーズ・ビン・サルマン・ビン・アブドルアジーズ殿下にも、長年にわたるご指導とご支援に感謝を申し上げます。そしてアラムコの社員の皆さんに、特に敬意を表したいと思います。

IPOの成功など、サウジ・ビジョン2030において重要な役割を課された時、彼らは職務を遂行しました。当社の施設が攻撃を受けた時には、世界が見守る中で任務を果たしました。そして業界全体が下降局面、新型コロナウイルス感染症、本格的なエネルギー危機への対処を迫られた時にも職務を全うしたのです。

ですからこれは、彼らに贈られた賞でもあります。

長年にわたり、私はアラムコや業界全体で多くの目覚ましい変化を目の当たりにしてきました。しかし1982年にアラムコに入社してから、状況が一周して元に戻ったこともあります。

当時は石油供給のピークの話題で持ちきりでした。市場の基本原理を無視していたために、これには重大な誤りがありました。つまり経済性が存在する限り、さらなる石油を発見・回収する動機もまたあるのです。

さらに当時は、水平油井や水圧破砕法、三次元地震探査、そしてオフショアテクノロジー、とりわけ深海掘削によって業界に革新が起きることも、予測されていませんでした。

最近では、話題は石油需要のピークに移っています。しかしこの意見も、検討の余地があります。その根拠となるものが主に政策であって、市場と競争原理と技術が結びついた確実な要因ではないからです。

こうした考えを念頭に置き、今回の会議のテーマである「ネットゼロへの道」についてお話ししたいと思います。

私はこれを二つの部分で見ています。気候目標と、その達成方法です。目標については、世界的なネットゼロ経済を達成するための広範な(私たちの業界全体を含めた)取り組みがあります。

そして地球上の誰もが、世界の平均気温の上昇を2度未満、さらには1.5度に抑えるというパリ協定の最終目標に関心を抱いています。

しかしどうやってそこに至るのかという点で、現在のエネルギー移行アプローチには、もはや無視できないほど多くの欠点があります。そもそも最近まで支配的だった言説は、非現実的なシナリオと仮定の寄せ集めに基づくものでした。

その結果、同様に非現実的な目標エネルギーミックスとスケジュールが生まれたのです。最近ではこの言説に歓迎すべき変化が生じており、論理的にもデータ的にも大いに実現しそうなエネルギーミックスとスケジュールへと舵が切られています。

しかし、この変化はもっと意味のあるものになる必要があるでしょう。次に、この挑戦の規模の大きさについてです。現在100兆ドル規模を誇る世界経済の、完全な転換についてのお話なのです。

その規模は2050年までにほぼ倍増し、エネルギー消費者はさらに20億人近く増加する可能性があります。つまり、30年足らずでエネルギーに基づく生活様式全体が大きく変革されるのです。

私たちも、それが歴史を作ることであると理解して、大いに刺激を受けようではありませんか。そしてこれまでのところ、代替エネルギーへの移行を目指す一致団結した努力にもかかわらず、現実は世界の石炭消費量が80億トンを超える記録的水準にあり、需要は依然として旺盛です。

石油については、2030年までに世界の需要が1日当たり2,500万バレル以上減少するだろうというシナリオが広く報道されています。しかし石油消費量は今年下半期に過去最高となる1日当たり1億300万バレルに達すると予測されています。

一方でガスは橋渡し燃料としてますます重要になっており、十分かつ手頃な価格の供給確保が地政学的な火種となっています。対照的に、再生可能エネルギーの記録的な成長にもかかわらず、風力と太陽光を合わせても現在はまだ世界の一次エネルギー消費の約5%を占めるに留まっています。

次にグリーン水素があります。

現在、「生産」コストは石油換算バレル当たり200ドルから400ドルの範囲にあるため、商業的なオフテイク契約の獲得は困難です。強調したいのは、風力、太陽光、水素などの代替エネルギーが移行の基盤と考えられている点です。

しかし、こうした説得力のある数字が示すのは、従来型エネルギーを時期尚早に廃止することで、安全保障と価格の優先順位が危険にさらされかねないということです。ウクライナの紛争によって悪化した最近のエネルギー危機が示すように、こうした現実を無視したり遠ざけたりすると、世界の安定が失われてしまうのです。そして、すでに見られる国民の怒りが、最終的に気候対策に対する意欲と活動自体の妨げとなる可能性があります。

実際、現在のエネルギー移行が抱える欠点は、エネルギーを生産する産業や依存する産業全体にすでに大規模な混乱を引き起こしています。長期計画立案者や投資家は、進むべき方向が分かっていません。

それによって従来型エネルギーの急激な需給不均衡のリスクが増大し、その結果、資産だけでなく国や国民が立ち往生する、より深刻なエネルギー危機のリスクが増大しています。

さらに、グローバル・ノースの多くの国は環境維持に重点的に取り組んでいますが、グローバル・サウスの多くの国で優先事項となっているのは経済的な生き残りです。現在のエネルギー移行計画では、この異なる解決策に対する明確なニーズが十分に認識されておらず、亀裂の拡大は当然の結果と言えます。

しかしながら、肯定的な結果もいくつかあります。特に、これまでよりずっと健全な議論に目が向け始められています。

影響力のある世界の指導者たちが、異なる経済やエネルギー状況を反映した解決策について話すことが多くなっています。彼らは「古いものを捨てる前に新しいものを作る」ことに言及しています。そして国民に追加コストを負担させることなくそこに至るための、実際的で釣り合いの取れた方法を求めています。

これは政策立案者、企業、世界中の人々の間で高まる、代替エネルギーの準備がまだ整っていないという認識を反映しています。さらに、説得力のある唯一の進むべき道は、エネルギー移行の欠点と結果に正面から取り組むことである、という認識です。こうした流れは、適切に機能する計画に向けて世界の準備が整ったことを、私に教えてくれています。

はっきりさせておきましょう。速やかで容易な解決策は存在しないのです。

しかし、すべてのステークホルダーが五つの戦略面で協力すれば、共通の気候目標を達成して新たな危機を回避できると、私は確信しています。

第一に、世界にふさわしいのは、より現実的で、より強固なエネルギー移行計画です。従来型エネルギーに対する継続的なニーズを認識しつつ、新たなエネルギーの持続的な導入を明確に重視する計画です。増加するエネルギー需要を満たすためには、あらゆるエネルギー源が必要であり、経験とニーズに応じてその組み合わせを調整してゆく必要があるからです。

例えば、その組み合わせには多様な低炭素水素が組み込まれるべきです。これにより、新たなエネルギーと従来型エネルギーの両方で長期的な投資も刺激されるはずです。

第二に、より適切な計画が整い、そうした投資が行われる場合には、従来型エネルギーのカーボンフットプリントをさらに削減するためのイノベーションと技術への注力が、一層強化される必要があります。私たちの業界は、例えば石油・ガス気候変動イニシアチブを通じて、これに尽力しています。当社では上流メタンガス強度目標を数年前倒しで達成し、現在は2030年までに上流メタンガス強度をほぼゼロにすることを目指しています。

第三に、「目に見えない燃料」とも呼ばれるエネルギー効率向上は、2040年までに求められる排出削減量の約40%を占めます。しかし、これは依然としてゴルフバッグの中に眠るあまり使われていないクラブのようなものです。変える必要があります。

第四に、改善された計画では、低所得な開発途上国の特殊状況と固有のニーズに、より大きく、より実際的な注意を払う必要があります。また先進国からの手厚い財政支援がなければ、パリ協定の目標が達成される可能性は低くなるでしょう。

最後に、モビリティを含むエネルギーは明らかに重要な部門です。しかし他の部門にも気候保護の大きな機会があります。包括的にアプローチすることで、気候保護の取り組みをより強固なものにできるでしょう。

例えば世界の食料システムは、温室効果ガス総排出量の3分の1までを占めています。家畜が排出する温室効果ガスだけで、世界の輸送部門全体と同程度になるのです。

一方で世界中の森林は、大気中のCO2を除去して貯留することで、地球温暖化との戦いに貢献しています。実際最近の研究では、森林は年間76億トンのCO2を吸収することが示されており、これは米国が年間に排出する炭素の約1.5倍に相当します。

そのため森林保全と森林再生は、世界の炭素隔離能力を大幅に高められる強力な組み合わせです。実際、アラムコを含む業界の多くの関係者にとって、ネットゼロ目標の重要な柱となっています。同様に、世界は人工の二酸化炭素吸収源、特にCCSにもっと注意を払っても良い頃だと、私は考えます。

これをさまざまな部門に展開できる可能性があります。この中には脱炭素化が困難な産業、石炭やガスを使う発電所、バイオマスを原料とする発電所が含まれます。直接空気回収技術もその一つです。潜在的な気候利益も同様に大きいでしょう。

あるシナリオでは、CCSをセメント工場に統合することで、2050年までに部門全体からのCO2排出量の約95%を回収・貯留できる可能性があることが示されています。しかし一部の推計によると、各国がネットゼロの取り組みを達成するためには、2050年までにCCSの能力を120倍に拡大する必要があります。

CCSはもはやエネルギー移行の脇役ではなく、この業界の未来にとって、そしてはるかに重要なことに世界の気候目標にとって、中心となる存在です。最後にもう一つ大切なお話です。スチール、アルミニウム、セメントは世界のCO2排出量の約20%を占めています。

実際、セメント産業が一つの国家だとしたら第三位のCO2排出国になるのです。

しかし物質使用の増加が世界の温室効果ガス排出量に及ぼす多大な影響は、現在の議論からは大きく抜け落ちています。そのためエネルギー移行と並行して材料の移行を推し進め、より耐久性のあるサステナブルな材料でこうした従来型の材料を補完することが不可欠です。

そして石油産業と化学産業が力を合わせることで次の大きな成果がもたらされると、私は確信しています。

ご臨席の皆様、世界的な気候目標へと至る速やかでなだらかな一本の道は、決して存在しませんでした。この道のりはむしろ、広大な大洋を渡る壮大な航海のようなものです。

目的地は分かっていますし、世界全体がすでに港を出ています。しかし艦隊は散り散りになって漂流しています。

今こそ、より強固なエネルギー移行のもとに再結集すべき時です。船の帆は、現実主義の風を受けています。今朝私が示した多彩なエネルギー源、多様な速度、多次元のアプローチがそこに反映されています。

この業界の供給に対する評判とともに、全員揃って向こう岸に到達できると、私は確信しています。

そして、歴史が作られる必要があった時に私たちが歴史を作ったのだと、未来の世代が誇れるようにしようではありませんか。

ありがとうございました。

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