- 自然を基盤とした気候変動対応で暮らしを守る
- サウジアラビアは砂漠化防止に取組中
- マングローブは乾燥地域の国々に適した効果的な解決策
自然と共に気候変動と闘う
貧困と密接に関連するもの、それは生態系の劣化です。生態系が壊れると、陸地と海に備わった人々の生活を支える機能に圧力をかけてしまいます。
炭素制約のある地球にとって最も大切なのは、持続可能な環境・社会・経済の各コミュニティを再生・構築・保持することです。自然を基盤とした気候変動の解決策に投資することは、人々を貧困から救い、ひいては生物多様性の保全につながります。
サウジアラビアは、壮大な海に東西を縁どられた古期山地。河川はなく、雨はほとんど降らず、夏は高気温となります。
水の少なさをよそに、この雄大でありながら脆さをはらむ環境にも自然は息づいています。そこでは、多くの在来動植物が絶滅の危機に瀕しています。サウジアラビアは、地球上他のどこにも見られない在来樹種の生息地でもあるのです。
森林破壊は自然への攻撃であり、しばしば生態上の枯渇と貧困を悪化させます。サウジアラビアでは、「サウジビジョン2030」変革プログラムにそって、在来植物の植樹プログラムが複数立ち上げられており、沿海の平地、広大な砂漠、そびえたつ山々で展開されています。
サウジアラビアは、197の国と地域ともに、国際連合の砂漠化対処条約に署名しています。全国連加盟国が2015年に採択し、2030年までの地球環境保護と貧困撲滅を目指した「持続可能な開発目標」達成には、劣化した土壌を回復させることが極めて重要です。
数あるプログラムの中でも特に優れ、かつ、地球に極めて重要なものとして、サウジアラムコが国内の白砂の海岸で取り組んでいる、マングローブ林の再生活動があります。このプログラムは、砂漠化に対する生きた防衛手段であり、生計向上の手段でもあります。
何より、再生により大量の二酸化炭素(CO2)吸収源がもたらせれます。サウジアラムコは1993年にマングローブ幼木の植樹を始めました。
このイニシアチブは、キング・ファハド石油・鉱物大学の研究機関とともに受託したもので、アラビア湾沿岸におけるマングローブ林の再構築に向けた研究の一環として始められました。サウジアラムコは、国家野生生物保全開発委員会、環境・水資源・農業省とも連携しました。
これら全パートナーは、プログラムが首尾よく前進しているかどうかの見極めに着手しました。現在、ダフナー砂漠の北岸ではマングローブ林がしっかりと定着しています。
ムーサー O. アルハリティはかがみこんで、マングローブの苗木植え付けの仕上げをしています。苗木の新しい家となるここ、夏の暑さに包まれるアラビア湾では、潮が引き、そよ風が吹きぬけていきます。サウジアラムコの環境エンジニアであるアルハリティは両手を使って、海水で濡れそぼったクリームグレー色の粗い砂粒の表面を滑らかにし、苗木を守る平らな地面を作ります。植えられた苗木は、高さ25㎝のヒルギダマシ(マングローブの一種)。ここから60㎞北のラヒマ湾に位置するサウジアラムコの種苗園で育てられ、この地へとやってきました。
上向きにとがったエメラルドグリーンの葉を付けたこの苗木は、気候変動の潮流の変化を目指した現在の取り組みの一環として、サウジアラムコが2020年に植樹した、同社過去最多となる200万本の新規マングローブのうちの1本です。約30年前にマングローブ林再生を手がけ始めて以来、サウジアラムコによる植樹は今回の200万本が加わって合計400万本超となります。
マングローブは、サウジアラビアの干上がった砂漠の海岸に、特に適した植物です。湾岸の海水は世界の海洋の中で塩分濃度が高いにもかかわらず、植樹された苗の生存率は90%と高く、海水温と溶存酸素の極端な変化にも順応し、健全に発育しています。
「サウジアラビアでは滅多に雨は降らず、また、植生もまばらです。海に囲まれているこの王国では、マングローブは自然林を拡大するための種として最適です。水やりをする必要がないのですから」と、アルハリティは述べています。「他の木が枯れてしまうような環境でマングローブは生育し、地面と海をつなぎます。マングローブは気候変動に適応しその影響を和らげる、自然を基盤とした重要な解決策なのです」
マングローブ:最前線に立つ気候戦士たち
マングローブ林は、自然界の最も力強い生態系の一つであり、植物や鳥類には生命を支える生息域、海洋生物にはすみかを提供します。さらに、こうした実り多いエコシステムに食糧や生計を依存している地元コミュニティの支えにもなっています。マングローブは地中深くに複雑な構造の根を張るため、波や嵐の際の高潮による海岸線の侵食を防ぎ、気候変動の影響への適応に役立ちます。
他の木々と比べて、マングローブは極めて迅速にCO2を地球の大気から除去することができます。複数の研究により、マングローブは陸上の森林よりも何倍も速く、しかもより長期間にわたって炭素を隔離することが分かっています。
大半の陸上熱帯林と比較して、マングローブは最大5倍までの炭素を貯蔵します。1本のヒルギダマシは、平均60年の寿命を通じ最大1.5トンの炭素を隔離するとサウジアラムコでは推定しています。
サウジアラムコの環境コンサルタント、ロナルド・ローグランドによると、サウジアラビア東岸沿いの開発拡大により、マングローブの90%が失われつつあります。しかし、サウジアラムコが事業を展開している地域には、アラビア湾では最後に存在する健全に成長したマングローブ林の大部分が残っています。
「マングローブ林の奇跡的な機能を再生することは、生物多様性を復元するとともに、経済および社会的なメリットを取り戻すことにもなります」とローグランドは述べます。「自然を基盤とする解決策は、フットプリントを減らし、人々の暮らしを支えるのです」
「マングローブ林の奇跡的な機能を再生することは、生物多様性を復元するとともに、経済および社会的なメリットを取り戻すことにもなります」
ロナルド・ローグランド サウジアラムコ 環境コンサルタント
炭素は1世紀以上にわたり、エネルギーの基本的な構成要素であり続け、何十億もの人々を貧困から救い上げてきました。今、エネルギー業界と各国政府は、特に発展途上国において手頃な価格のエネルギーを確保しつつ、気候変動による脅威を緩和するという、相反する問題を突き付けられています。
食糧生産の脅威となる気象パターンの変化から海水面の上昇まで、気候変動の影響は世界全体に及び、前例のない規模となっています。再生と保護に根差したエコロジーは、気候問題に立ち向かいます。
自然を自然の力で癒すことは、地球、人々、そして繁栄のための壮大な解決策をもたらすのです。