「サウンド・インスピレーション」-ロックンロールからヒントを得た新しい地震探査法

サウジアラムコの物理探査チームは、地震データを取得し、サウジアラビアの地下をマッピングするより優れた方法を追求しています。


  • サウジアラムコの物理探査チームは、地震データを取得するより優れた方法について、ホームHi-Fiシステムからヒントを得る
  • バイブレータートラックを並べた「低・中・高音域スピーカー」のパワーを利用する新技術
  • 二つの革新的要素

Michael J. Ives |

ロックンロールに欠かせないツールと物理探査を組み合わせたら、サウジアラビアの砂漠で働く地球物理学者や職員たちの毎日がもっとエキサイティングになる、なんて誰が想像したでしょうか?

ロックの伝説のライブツアーで話題となるのが、そのステージに積み上げられた30メートルもの高さのスピーカーです。そして、大規模なコンサートで誰もが体験するように、その重低音は体中に響きわたるのです。

最新のホームHi-Fiシステムは、その音響効果をより忠実に再現します。サウジアラムコの物理探査チームは、まさにそこからヒントを得たのです。彼らは、サウジアラビアでの炭化水素探査のため、地震データを取得して地下をマッピングする、より優れたシステムを追求していました。

このシステムは、10万人規模のアリーナや、家でエンターテイメントを楽しむ家族向けではありません。新たな観客は、サウジアラビアの砂漠の下にある岩の層です。

音響パワーを利用する

このアイデアは、サウジアラムコがR&D(研究開発)センターを置くオランダのデルフト工科大学で生まれました。A.J. ベルクハウト教授が提案したのは、バイブレータートラックを並べた「低・中・高音域スピーカー」のパワーを利用する、新しい技術です。特殊なトラックを使って探査現場で音波を発生させることにより、地下の高解像度の画像が得られるのです。

サウジアラビアの砂漠を横断するバイブレータートラック

従来の地震探査では、広帯域のバイブレータートラック1台ですべての周波数帯の音波を連続的に発生させていました。しかしこれではオールインワンのシングルスピーカーのような初心者向けホームHi-Fiシステムと同じで、最良のサウンドは作り出せません。ウーファー(低音域)、ミッドレンジ(中音域)、ツイーター(高音域)のそれぞれ専用のスピーカーを活用して初めて、サウンドをより高音質かつ忠実に再現できるのです。
 
スピーカーシステムからヒントを得て、そのアプローチは理にかなっていると確信したサウジアラムコの物理探索チームは、探査現場で「三次元分離型振動源統合地震探査データ取得」の実証実験を行いました。これは、探査現場での作業効率と地震探査データの質を向上させる世界初の技術です。この方法では、複数の狭帯域振動源(低周波数から高周波数)を同時に作動させ、超高解像度の地震探査データを取得します。

二つの革新的要素

 このアプローチが革新的である点は二つあります。一つ目は、それぞれの帯域専用の振動源(スピーカー)から音波を発生させるためS/N比が大幅に向上(ノイズが低減)し、地下を解析するための最先端データ処理テクノロジーを利用できるようになったことです。
 
「二つ目は、データを同時に取得できるため、測定にかかる時間が大幅に短縮されたことです」とサウジアラムコのEXPEC先端リサーチセンターのプロジェクトリーダーであるコンスタンティン・ツィンガスは語ります。
 
従来の地震探査では、24時間で平均約10,000振動ポイント(VP)であったのに対して、新しいアプローチでは平均58,000 VPにまで向上しました。

「調査期間が6ヶ月から2ヶ月に短縮されるということは、コスト削減のみならず、なにより社員が過酷な環境で作業しなければならない時間が大幅に短縮されるということです」

サウジアラムコの先端リサーチセンターのプロジェクトリーダーのコンスタンティン・ツィンガス

「調査期間が6ヶ月から2ヶ月に短縮されるということは、コスト削減のみならず、なにより社員が過酷な環境で作業しなければならない時間が大幅に短縮されるということです」とツィンガスは述べています。
 
物理探査チームの次なるステップは、実地テストの結果をもとに、実用化を進めることです。

三次元分離型振動源統合地震探査データを解析するサウジアラムコのEXPEC先端リサーチセンターのプロジェクトリーダーのコンスタンチン・ツィンガス(中央後方)とチームメンバー、アブドゥラハマン・アルシュハイル(正面左)、モハメッド・アルムバラク(着席)、ジグムント・ゼニオスキ(右端)

物理探査チームは、その革新的な技術開発が認められ、アブダビで開催された国際石油関連展示会「2018 ADIPEC」において「性能と効率性の優れたアウトスタンディング・プロジェクト・オブ・ザ・イヤー」を受賞したほか、2019年のサウジアラムコ・エクセレンスアワードを受賞しました。