スマート化の道を照らす灯

グローバル・ライトハウス認定施設であるアラムコ3拠点は、4IRの力を駆使し、よりスマートな、より安全な、そしてより効率的なエネルギー生産の可能性を示す


  • 第四次産業革命(4IR)技術は、ほぼ全ての業種や分野において操業や事業の実績向上を実現
  • ウスマニヤ、クライス、アブケイクの各拠点では、データに基づく意思決定と統合型スマート技術で施設の安全性や効率を高めるため、オペレーションとデジタル化の統合を推進
  • これらの拠点は、4IRの先進的活用により、世界経済フォーラムの「グローバル・ライトハウス」ネットワークに認定された世界有数の生産施設群の一角をなす

Richard Gray |

第四次産業革命(4IR)技術は、産業のほぼ全ての分野において、操業や事業の実績をかつてないほどの劇的なペースで向上させます。その変革の力は、実際の機械や車両、物理的製品などを人工知能(AI)やデータ解析、モノのインターネット(IoT)といったデジタルシステムにつなげることで生まれます。

そうすることにより、工場での生産を需要に合わせて自動的に調整したり、設備の不具合を予測して事前に保守整備に着手したりということが可能になります。またロボットやコンピューターに反復作業や危険を伴う長時間の作業を代行させることで、従業員がその時間を他の作業に有効活用できる可能性にもつながります。


4IRのパイオニアが連なるコミュニティ

世界的に見て、製造・加工業界の4IR化は、他の産業分野に未だ後れを取っています。世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)およびマッキンゼー社(McKinsey)が2020年に実施した調査によると、70%以上の企業がまだデジタル・トランスフォーメーションの試験的段階の途上にあります。

WEFはこのギャップを埋め、生産プロセスへのより総合的な先進技術導入を加速するため、グローバル・ライトハウス・ネットワーク(GLN)を創設しました。GLNは、4IRの活用を通して工場やバリューチェーン、ビジネスモデルの変革を進める先進的な企業に光をあてます。

アラムコの3拠点は、4IR技術統合の取り組みが評価され、GLN施設として認定を受けました。

アラムコの施設として3番目にグローバル・ライトハウスの認定を受けたアブケイク・プラント

テクノロジーの先進企業による共同体

GLNを通じてWEFでは、4IR技術の活用を成功裏に進めている施設にスポットライトを当てることで、その潜在的な力の実証を目指しています。

このネットワークの一員として認められるためには、厳しい審査を通過しなければなりません。産業分野の専門家からなる委員会が各申請内容を審査し、その選考に残った施設を実際に、あるいはオンラインで視察し、4IR技術の導入のあり方を調査します。委員会は世界の先進的な4IR実装施設を数多く見てきたその知見を活かし、生産からバリューチェーンまで全体を対象として審査します。審査対象となる施設は、技術革新だけでなく、事業拡大の中心に地球環境や人への配慮があるかどうかも評価されます。

認定されれば、GLNコミュニティの一員としてベストプラクティス共有の一角をなすことになります。メンバーは、新規プロジェクトにおけるコラボレーションや見識の発展を通して共に成長し、新たな協力関係を築いていきます。

イノベーションを推し進め、増え続ける世界のエネルギー需要をより効率的に満たすため絶えず協力関係の活用に努めるアラムコにとって、これは重要なことです。エネルギー生産とサステナビリティ強化のバランスをとるには、石油・ガスの加工、生産をより効率よく行っていかなければなりません。先進技術がその推進力となるのです。


GLN認定の石油・ガス施設としては世界初

2019年に、世界最大規模のガス処理施設であるウスマニヤ・ガスプラント(Uthmaniyah Gas Plant:UGP)が、アラムコで初となるグローバル・ライトハウスの認定を受けました。石油・ガス関連施設としても世界初の認定となりました。

認定の決め手となったのは、プラントに4IR技術を導入し、従業員の作業環境に変革をもたらした点にあります。UGPではウェアラブル技術の活用により、生産性や安全性がはるかに向上しました。

アラムコで初となる世界経済フォーラムの認定を受けたウスマニヤ・ガスプラント

スマートウォッチに搭載されたセンサーや作業員が施設内で身に着ける身分証は、重要情報の追跡が可能です。例えば、それらを身に着けた従業員のバイタルサインを継続して見ていくことで、熱中症のリスクがある場合に注意を促すことができます。

また、万が一ガス漏れが発生した場合、密閉された空間では作業員が大きな危険にさらされてしまいます。有毒ガスは無色無臭ですが、ウェアラブルデバイスのセンサーならそのガスを検知し、作業員に安全な場所への避難を促すことができます。

またUGPではドローンを活用し、よりスピーディかつより安全な設備の保守点検を実現しています。ドローンを飛ばしてタワーの上部を点検すれば、作業員にとって危険を伴う高所作業の必要がなくなるだけでなく、足場設営にかかる費用や時間も節約できます。作業員は地上にとどまりながら点検箇所までドローンを遠隔操縦することで、カメラを通して異常の有無を確認できるのです。


世界最大のインテリジェント油田

アラムコ第2のGLN拠点は、2020年に認定を受けた世界最大インテリジェント油田であるクライス(Khurais)です。2009年に操業を開始したクライスは500を超える油井を抱え、その大規模な拠点運営のために4IR導入を進めました。ここでは数万にのぼるセンサーがいたるところに設置され、あらゆる角度から産油および電力消費のデータを収集しています。

収集した全データはクライスの「デジタルツイン」に送られます。これはクライスの稼働状況を監視する、仮想空間に設けられた施設のリアルタイムモデルで、問題発生の予測や診断もシステム内で完結しています。

デジタルツインの採用により、エンジニアはプラント操業の計画調整や調整案をまず仮想環境で試行し、その結果最も実効性の高い方策を展開することが可能になります。その際、実際のプラント操業を中断することもありません。

この技術によって、クライスの産油量増大が図られると同時に、消費電力は18%、保守コストは30%、さらに保守点検に掛かる時間も約40%削減できました。

世界最大のインテリジェント油田クライス

デジタル化を果たした操業70年の拠点

アブケイク(Abqaiq)・プラントはアラムコ最大の石油処理施設、かつ世界最大規模の原油安定化プラントとして、世界の石油供給量の5%を賄っています。また操業は70年を超え、当社で最も古い拠点です。私たちはここで最先端技術を活用し、デジタル化を通じた生産プロセスの変革を進めました。これにより操業実績や効率が高まった結果、2021年に当社第3のグローバル・ライトハウス認定拠点となりました。

しかし施設の古さゆえの課題があります。例えば、建物はWi-Fi利用を想定した構造にはなっていません。しかしデータ転送は、スマート化された生産には欠かせません。そこで、配線から壁の新設まで、時間をかけて新しいインフラを施設に整備し、高速かつ安定したコネクティビティを実現しました。

アブケイクはアラムコ最大の石油処理プラント

アブケイク・プラントのそばにはガワール・インテリジェンス・センター(Ghawar Intelligence Center)があり、複数の油田にまたがる4IR情報ハブとしての役割を担っています。アブケイクやクライスなどの拠点をサポートし、ベンチマークのツールを提供することで、各拠点における4IRプロセスの比較を可能にしています。またこのセンターでは、IoTデータに基づく予測解析ツールなど、独自のアプリケーション開発も行っています。


目覚ましいAI効果

アブケイク・プラントでは、AIアルゴリズムの採用により、プラントで生産される石油からの発電量増加に成功しました。AIアルゴリズムをを用いて石油安定化プロセスを解析し、操業の最適化と製品品質の安定化のための調整を行っています。

同様に、センサーとAIを組み合わせ、設備の不具合発生を予測し、保守や交換のスケジュールを立てています。その結果、予定外のメンテナンスが20%削減され、設備不具合による生産遅延の大幅な低減を実現しています。

さらにAIは、ガスフレアリングという、天然ガスの過剰分を燃焼、放出するプロセスの低減も実現可能にしました。フレアリングは安全対策として時折実施しなければならないものですが、メタンガスやCO2を排出するため、私たちは継続的な低減に取り組んでいます。

AIはアブケイク・プラントの様々なプロセス向上に貢献

期待が膨らむエネルギー産業の未来

アラムコは、4IR技術導入を通じてオペレーションの変革を図り、デジタル化で世界をリードするエネルギー企業を目指しています。この目標に向かう私たちの真摯な姿勢は、グローバル・ライトハウス・ネットワークに3拠点も登録されている事実に表れています。

4IR技術のイノベーションはかつてないスピードで展開しており、私たちの働き方を一変させるでしょう。

こうしたテクノロジーは、産業の効率や生産性、サステナビリティを高めていく大きな可能性を秘めています。今後、変化はますます加速し、私たちが思い描きはじめた未来のイノベーションを実現してくれることでしょう。そしてアラムコのグローバル・ライトハウス3拠点は、その道のりを照らす私たちの灯なのです。