アリ H.ドグル ― 数学・科学・利用可能な最良の技術を統合した革新的思考の持ち主

サウジアラビアの地質解析には、多分野の知識を応用することが必要


  • ドグルは、世界最大の既知埋蔵量を扱う業務に従事
  • 巨大な貯留層で高精度の数理モデルを構築するには、岩石・流体・地質・地震に関する膨大なデータが必要
  • ドグルのチームは、最先端のスーパーコンピューターを活用

Michael J. Ives |

ダーランの探鉱・石油工学センター先端研究センター(EXPEC ARC)で主任技術者を務めるサウジアラムコ・フェローのアリ H. ドグルは、サウジアラビアの午後の光が差し込むオフィスでのインタビューで、彼のサウジアラムコでの30年間を振り返ります。

「世界中の人々に必要なエネルギーを供給するため、科学に基づく研究を日々行ってきました」とドグルは語ります。

「世界中の人々に必要なエネルギーを供給するため、科学に基づく研究を日々行ってきました」

サウジアラムコ・フェロー、アリ H. ドグル

「人間は数学と科学を用いて、数十億マイル彼方の星々について解明することができます。それと同じように、私たちは利用可能な最良の技術によって、地球、そして石油・ガス流動の謎を解明しようとしています。地球科学ではまだ多くのことが謎に包まれていますが、数学・物理学・化学・コンピューターサイエンスを統合し、さらに最先端のコンピューターを活用することで、私たちの足下に広がる世界についてもっと知ることができるのです」とドグルは言います。

ドグルには取り組むべき課題が沢山あります。それは世界最大の既知石油・ガス埋蔵量とさらなる潜在性であり、世界のエネルギーの多くがサウジアラビアの巨大な石油・ガス層から供給されていることにあるのです。

地球をモデリング

石油・天然ガス資源の管理および探鉱には、高度な技術、とりわけコンピューターシミュレーション技術が不可欠です。天気予報と同様に、地下の石油・ガス層においても、スーパーコンピューター上にデジタルモデルを構築して、貯留層内で油やガスがどのように流動するかを示すカラフルな三次元マップを作成します。

貯留層シミュレーションに用いるモデルのインプットとして、貯留層内の岩石とその特性を正確に表現する必要があります。そして貯留層シミュレーションのもう一つの要素は、数理モデル、すなわち流体挙動を計算する非常に複雑な数学的アルゴリズムです。

「レンガ造りの家のように、貯留層をグリッドブロックと呼ばれる碁盤目状の小さなブロックに分割して表示します。貯留層モデルの構築では、使用するグリッドブロック数が多いほど、岩石の性質の変化をより正確に表すことができます。岩石中を流体が移動するため、岩石のモデル化が適切であれば、流体挙動をより正確に計算でき、シミュレーションの精度も上がります」とドグルは説明します。

「巨大な貯留層の場合、貯留層と流体挙動を適切にモデル化するには、数百万、数十億、それ以上のグリッドブロックに分割する必要があります。このプロセスには多大な費用がかかる上、モデル化自体が不可能なケースもあります。

また巨大な貯留層において高精度の数理モデルを構築するには、岩石・流体・地質・地震などに関する膨大なデータも必要です。そのデータサイズは、世界の標準的な貯留層と比較してもはるかに大きいものです」

多分野の知識を応用

サウジアラビアの地質を解析するには、多分野の知識を応用する必要があるとドグルは語ります。

「大変有難いことに、私は最先端のスーパーコンピューターをいつでも自由に使用できます。スーパーコンピューターの活用によって、私やダーランとアメリカで活動する私のチームは、興味深い科学的課題に取り組むことができます」

数学・物理学・化学・コンピューターサイエンスを組み合わせ、最先端のコンピューターを使用しながら、サウジアラムコの探鉱・石油工学センター先端研究センター(EXPEC ARC)の研究チームはサウジアラビアの地質研究を続けています。

その技術は大変優れたものです。「現在、私たちは世界最高性能のスーパーコンピューターの一つを使用しながら、さらなる技術向上も目指しています。当社は引き続き投資を行い、2020年には処理能力を増強して、最高水準の性能を維持します」

このような強力なテクノロジーと彼のチームの革新的思考が、貯留層工学における物性解析の基本的な方法に変革をもたらしているとドグルは言います。

「当社が開発したアルゴリズムとスーパーコンピューターの処理能力を組み合わせると、これまで不可能だった新しいアイデアを試すことができます。それにより、貯留層シミュレーションの分野ではパラダイムシフトが起こりつつあります。たとえば2015年には、アブドラ国王科学技術大学のシャヒーン IIスーパーコンピューターを使用して、当社の新しい堆積盆シミュレーターのテストが実施されました。このシミュレーションは、アラビア半島全土の炭化水素資源ポテンシャルを評価するもので、1,300億セルに分割した堆積盆モデルと5億年のヒストリーとのマッチングが行われました。

「その翌年には、1兆グリッドブロックの貯留層モデルを用いたシミュレーションに成功しました。これは、自社開発の技術により達成された世界記録です。そしてまさに今年、ダーランのコンピューターセンターにあるスーパーコンピューターを使用して、当社の主要な油田の一つであり世界最大の生産量を誇る油田のシミュレーションが実施されました。その油井の多くは半世紀以上前に開発されたもので、200憶グリッドブロックの貯留層モデルとのヒストリーマッチングが行われました」

チームの力

チームが貯留層・堆積盆シミュレーターのPOWERS(Parallel Oil-Water-Gas-Reservoir Simulator)シリーズを自社開発できたことは大変素晴らしいとドグルは言います。

「このシリーズの開発は1994年に始まりました。現在では、堆積盆形成史、石油・ガスの生成と今日の貯留槽への移動をシミュレートするTeraBasinを含みます」

TeraBasinは、堆積盆の形成史や、数百万年にわたる堆積過程と石油・ガスの生成・移動・集積過程をシミュレートすることができます。この製品は、当社のTeraPOWERSの一部で、桁違いの計算速度と計算効率でモデリングを行う次世代の貯留層・堆積盆シミュレーターです。

「しかしながら、当社はシミュレーターを開発するだけではありません。このような高度な技術を通して人を育てます。人は技術を開発しますが、技術が人を育てるわけではありません。つまり、求められる技術を開発できる人材を育成する必要があるのです。私たちチームは興味深い課題に取り組む機会に恵まれており、そのメンバーの多くは20年以上も私と共に仕事をしています」

アリ H. ドグルとアラムコのボストンチーム

サウジアラムコの人々:アリ H. ドグルの経歴

アリ H. ドグルは1988年にサウジアラムコに入社し、その後、技術開発部門の統括責任者となり、貯留層と生産技術の双方を担当しました。ドグルは現在、当社の探鉱・石油工学センター先端研究センター(EXPEC ARC)のサウジアラムコ・フェローです。

ドグルは2011年からマサチューセッツ工科大学(MIT)に所属し、2019年にはMITの地球大気惑星科学科における地球資源研究所(ERL)フェローに選出されました。同フェローは世界にわずか3名です。

アリ H. ドグル、サウジアラムコ・フェロー、サウジアラムコの探鉱・石油工学センター主任技術者

ドグルは、世界石油工学技術者協会(SPE)Reservoir Description and Dynamics Award、SPE John Franklin Carll Award、World Oil's Innovative Thinker Awardを受賞し、2014年にはSPEで最も権威のある名誉会員に選ばれました。

ドグルは、イスタンブール工科大学で工学の学士号を取得し、テキサス大学オースティン校で石油工学と応用数学の博士号を取得しました。カリフォルニア工科大学化学工学科では博士研究員を務めました。

また、テキサス大学機械工学科ならびにノルウェー工科大学で教鞭をとり、テキサス大学ダラス校でも数学を教えています。

2017年には全米技術アカデミーに選出されました。