CEOが世界石油会議(WPC)の2021年大会で発言

サウジアラムコ社長兼CEO アミン・ナセル

皆様、おはようございます。

久方ぶりにこうしてヒューストンに戻ってこられたこと、特別な思いがいたします。そしてパートナーや友人の皆様がエネルギーの未来を再びつなぎ、活力を取り戻し、検証し直す姿を見て、喜ばしく思います。

未来に目を向ける前に、WPCがその最高の栄誉であるデューハースト賞をもってダン・ヤーギン博士の貢献を認めたことについて、お祝い申し上げます。

そして、ダンが許してくれるならば、彼の著作のタイトルを本日の私の発言のテーマにしたいと思います。なぜならば、皆様、私たちの業界の前途には新たな探求が待っていると、確信しているからです。

世界は今まさに、これまで以上に混沌としたエネルギー転換に直面しています。エネルギーの未来に関するいくつもの極めて非現実的な筋書きや想定が、状況を分かりにくくしています。

例えば、全世界が代替エネルギーを利用できるようになり、巨大な国際的エネルギーシステムがほとんど一夜にして形を変えてしまうかもしれないという推測が、ますますなされるようになってきています。

または、30年以内におよそ115兆ドルを要する投資が行われるという憶測もあります。中でも最も厄介なのは、適切な転換戦略がすでに整っているという想定です。

実際はそうではありません。そこには大きな不備があります。

エネルギー安全保障や経済発展、手頃な価格の必要性は、明らかに十分な注目を受けていません。

これらに注目が集まり、転換戦略にある明白なギャップが修正されない限りは、この混沌は強まる一方でしょう。ですから、私たちの業界にとって喫緊の新たな探求とは、世界で高まり続けるエネルギー需要を現実的に満たし続ける道筋を描くことです。確実に、手頃な価格で、持続的な方法で。

これは気候目標を変えることではありません。

この会場にいらっしゃる方、アラムコに勤務する者、そしてこの業界全体の誰もが、ネットゼロ経済に全力を傾けていることを、私はよく知っています。

そして、地球上のすべての人々が、気温上昇を2度未満に抑えるという究極の目標に強い関心を持っています。

重要なのは、どのようにそこに到達するかという点です。なぜなら、ジョン・アダムズ大統領の有名な言葉にあるように、「事実は揺るぎないもの」だからです。

信頼できる転換戦略に盛り込む必要のある、いくつもの揺るぎない事実があります。本日はその代表的な3つを皆様と共有したいと思います。

第一に、代替エネルギーが十分な負荷を担える状態とは程遠いため、新たなエネルギー源と既存のエネルギー源を長期間並行して稼働させる必要があるということです。

世界中のすべての車両の99%以上が現在もまだ従来型のものです。

多くの優れた研究が進んでいるにもかかわらず、航空、海運、そしてトラック輸送にさえ、従来の燃料に代わる本当に有望な代替エネルギーは未だに存在しません。石油化学原料と潤滑油に関して言えば、最も積極的な転換計画においてさえ、代わりとなるものはほとんど示されていません。

そして、世界の一次エネルギーミックスにおける太陽光と風力を合わせたシェアは、2%未満に過ぎません。

ぜひ誤解しないでいただきたいのですが、代替エネルギーは進歩していますし、私たちはそれを歓迎します。しかし、世界中で大規模に展開するためには、想定よりもはるかに長い時間がかかります。

石油とガスへのすべての新たな投資を止めようとする圧力が高まっている中で、それは助けにはなりません。2014年から昨年までの間に、業界全体でのアップストリームへの投資は7,000億ドルから3,000億ドルまで50パーセント以上低下しました。

その結果、供給が減速しはじめています。石油の余剰生産能力にも悪影響を与え、能力は急速に低下し続けています。堅調な需要伸長が見られる中で起きているのです。

第二は、先進国以外の国々での転換は、先進国と同じペースでは進まないということです。

なぜなら、開発途上国こそ、人類のほとんどが生活を営み、2050年までに新たにエネルギーの消費者となる約20億人の大半が住むこととなる場所でもあるからです。

そこでは26億人以上が今も清潔な調理を行えず、7億5,000万人が電気のない生活を送っています。そして、人々が四輪車にではなく、二輪車に乗ることが出来るようになりたいと切望するところなのです。

そのため、手の届く価格かどうかは現実的な問題で、様々なスピード、エネルギー源で起きる移行において、画一的な戦略は効果的ではありません。

第三に、石油とガスは今後数十年にわたって必要とされるため、気候目標を達成するには、排出削減の加速が戦略的かつ緊急に必要とされているいうことです。

チャンスはいくらでもあります。例を挙げましょう。

  • ブルー水素やブルーアンモニアなどの、低炭素製品を生産すること。
  • より効率的で低排出の内燃機関を開発すること。
  • 建築、住宅、自動車、太陽光、風力向けの非金属素材など、石油の非燃焼利用を進めること。
  • 昨年のG20で世界の指導者たちが支持した「循環型炭素経済」を実現すること。

そして、炭素回収・利用・貯留(CCUS)を盛り込まない気候目標に向けた確かな道筋は一つもありません。

これらは空虚な言葉ではないのです。

こうした分野では、余裕のない人々に負担をかけることなく、短期間で最良の気候保護策の幾つかを加えることができます。私たちの業界は、号砲を待っていたわけではないのです。

しかし、実現を加速するため、努力を惜しんではなりません。そうした努力を通じて、有言実行が力強く示されるでしょう。

私たちは、ただ騒ぎ立てるのではなく、転換戦略と計画に変化をもたらす存在になれるのです。そしてそれは、今後数十年間の人々の日常生活における私たちの根本的な役割を示すことになるでしょう。

もう1つ、お伝えせずにはいられないことがあります。

主要なステークホルダーの大半が、気候変動対応の正当性を信じるのと同じくらい、お話ししたような事実に同意しているのです。私たちはこのことをよく知っています。彼らは私的な場でそう話しているからです。

公にもそのように話すべきでしょう。彼らのジレンマは分かります。転換が進んでいる最中もそれ以降も、石油とガスが不可欠かつ重要な役割を果たすと公に認めることは、一部の人にとっては難しいでしょう。

しかし、この現実を認めることは、仮に限度を超えるほどの価格高騰が起きた場合のエネルギー不安、激しいインフレ、社会不安に対処するよりもずっと容易です。さらには、各国のネットゼロの約束が見直されはじめるかも知れません。

私はすべての答えを持ち合わせてはいません、誰も持ち合わせていないのです。しかし、石油とガスへの新たな投資をすべて停止することが答えの1つではないことは、はっきりと分かります。

安定的、実践的かつ包括的な戦略があってはじめて、世界は成功裏に移行することができると知っています。

こうした揺るぎない事実を議論に盛り込み、すべてのステークホルダーが自らの役割を果たす、真に国際的な取り組みのプロセスが今すぐに必要であることを知っています。

そして、私の発言に反論があるかもしれませんが、私たちが業界として声を上げなければ、他の誰も私たちの代弁をしないことを知っています。

皆様、手遅れになる前に、今こそこうした揺るぎない事実を世界中に大声で明確に伝えるべきです。

ですから、この喫緊の新しい探求を産業として受け入れ、あらゆる分野での共同の取り組みを加速させましょう。

私たちの地球、経済、投資家、株主、そして世界中の何十億人もの消費者のために。

ご清聴ありがとうございました。

 

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