これまでに発表されている研究で最も包括的な油田の炭素強度(Carbon Intensity: CI)のひとつとして、スタンフォード大学が率いる国際チームが世界各地で操業中の油田のCIを算出したところ、サウジアラビアにとって有意義な結果が示されました。
CIとは、油田から製油所までの原油生産に伴う温室効果ガス排出量の尺度です。今回の研究では、世界90ヶ国で操業中の油田8,966ヶ所のCIを分析しました。対象となった油田は、2015年における世界の原油・コンデンセート生産量のなんと98%を占めています。
査読審査を受けた本研究チームの論文「(Global carbon intensity of crude oil production)」は、権威ある学術誌「サイエンス」の8月31日号に掲載されました。
望ましい低い数値
今回の研究からサウジアラビアのCIは、世界の石油生産量のうち0.1%以上を生産している国々の中で、原油の抽出から処理、製油所への輸送までにおける過程で大手産油国の中で最も低いことが判明しました。
サウジアラビア産原油は、メガジュールあたりの二酸化炭素(CO2)換算でCI値4.6グラム、つまり原油1バレルあたりのCO2換算では約27kgであり、日量約15万バレルの産油国であるデンマークに次いで世界で2番目の低さです。
論文では、「サウジアラビアは世界最大の産油国でありながら、埋蔵規模の大きな少数の油田を効率良く運営しています。サウジアラビアはバレルあたりのガスフレアリング率が低く、水圧入での随伴水も少ないため、生産される原油単位あたりの質量が低く、液体の分離、取り扱い、処理、再注入に使用されるエネルギーが少なくて済むことが、低CI値に貢献している」と報告されています。
業界全体の取り組み
サウジアラムコの社長兼CEOアミン・ナセル(Amin Nasser)は、先般、ニューヨークで開催された石油・ガス気候変動イニシアチブ(Oil and Gas Climate Initiative: OGCI)の年次ステークホルダー会議を前に、本研究によりサウジ産原油の大幅な温室効果ガス削減の可能性が確認されたと発表しました。ニューヨークの会議では、OGCI既存メンバー10社のCEOのほか、新メンバーであるエクソンモービル、シェブロン、オクシデンタルの3社が、主要ステークホルダーとの間で温室効果ガス排出量を削減するための業界の取り組みについて議論しました。またOGCIは、中核のアップストリーム分野における石油・ガス事業の総合的な平均メタン強度を2025年までに0.25%以下に削減し、最終的には3分の1の削減に相当する0.2%の達成を目指す計画を発表しました。
世界規模の配慮
今後数十年にわたり、石油需要は依然として高いことから、低CI原油の使用を優先することは気候変動を考慮する観点から世界的に重要な事項です。
石油需要は、今後25年間に倍増が予想される化学品需要の上昇により促進されます。 その間、原油は最も炭素に配慮した方法で供給される必要があり、本論文ではCIを削減する1つの方法として技術への投資を推奨しています。
低CI値の要因
サウジアラビア産原油のCI値が低いのは、サウジアラムコの業界最高クラスの貯留層管理、フレアリングの最小化、高エネルギー効率、温室効果ガス排出管理、メタン漏れの検出と修復(LDAR)の継続的な実施など、 複数の要素によるものです。
LDARプログラムは、サウジアラビア全域ですべての業務において導入されており、サーマルカメラ、レーザ検出、定量化センサーなどの新たな費用対効果の高いメタン監視技術の評価と導入によって最適化されています。
フレアリング強度が1%未満のレベルであり、日常的なフレアリングの最小化において世界をリードするサウジアラムコは、モビリティ・ジオステアリング、スマートコンプリートを備えたマルチラテラル油層、および周辺ウオーター・フラディング法などの技術も使用しているため、バレルあたりの水分やエネルギー消費量が削減され、それらの結果として炭素排出量が低減されます。
膨大なデータ
学術誌「サイエンス」に掲載された研究では、在来型・非在来型資源のほか、陸上および海上の油田に関する膨大な公開データが分析されました。研究チームは、油田から石油精製までの工程、つまり探査、掘削、開発、生産、抽出、表面処理、製油所への輸送までのCI値を算出しました。
この研究は、800点以上の文献からデータを参照しており、2015年の世界の石油・コンデンセート生産量の98%を対象としています。このような分析が、各油田レベルで実施されたのは初めてのことです。
アラムコ研究センター - デトロイトの科学者たちも、世界的な学術・政策機関14ヶ所の科学者たちと、この論文を共著しました。アラムコのチームメンバーは、ハッサン・アルホゥジェーリー(Hassan El-Houjeiri)、アルハッサン・バダーダ(Alhassan Badahdah)、ジャン・クリストフ・モンフォール(Jean-Christophe Monfort)、スティーブ・プラゼミツキ(Steve Przesmitzki)です。
これまで原油でのCI値を測定する手法が全くなかったために、原油の温室効果ガス排出量に対する理解は深まりませんでした。
研究チームは、スタンフォード大学が独自に開発した原油生産温室効果ガス排出量予測装置(Oil Production Greenhouse Gas Emissions Estimator:OPGEE)を使用しました。OPGEEの開発は、規制当局や個人投資家によるデータを基にしたCI分析の利用増加に貢献するものです。「OPGEEモデルの開発は、原油の炭素強度を測定するための査読審査済みオープン・ソースツールを提供することにより、これまで大きな謎に包まれていた部分を解決しました」とホゥジェーリーは述べています。
重大な可能性
選択的かつ革新的な手法で世界の原油の様々な特性を管理することは、温室効果ガス排出の削減に向けて大きな可能性を秘めています。
原油からガソリンやディーゼルなどの燃料への生産、輸送、精製は、分野によっては輸送燃料からの排出量の最大40%を占めます。この研究では、CIに影響を及ぼす2つの強力な因子が、フレアリングと水分の削減であることを確認しました。
同論文では、新規および既存の油田が、CO2回収の組み込み、日常的なフレアリングの排除、漏えい排出メタンの回収など、様々な手段でCIの削減が可能であることを指摘しています。
業界のリーダー
今回の論文は、炭素排出の制約を受ける業界において、サウジアラビアが持つ優位性に定量的価値を与えるものであり、原油供給先を切り替えるだけでどれほどの炭素削減が可能になるかを示しています。低CIの原油資源を選択することや、ガス管理手法の改善を通じて石油産業の排出量を低減することにより、CO2換算で少なくとも18メトリック・ギガトンの削減が可能であることが判明しています。
サウジアラムコの最高技術責任者アハマッド O.アルコウェイター(Ahmad O. Al-Khowaiter)は、「この論文に示された知見により、炭素強度に関して石油業界をリードするサウジアラムコの地位が明らかになりました。当社は、この地位を維持するための取り組みに引き続き全力を注いでまいります」と述べています。
引用論文
Paper citation: M.S. Masnadi et al., ”Global carbon intensity of crude oil production,” Science, Vol. 361, 851 (2018)