サウジアラムコCEO 、STS(Science and Technology in Society)フォーラムでが演説

サウジアラムコ社長兼CEO、カーリッド A. アルファレ: 

皆さま、こんにちは。ご列席の皆様、おはようございます。初めに、ウィリアム・キャステル卿にご紹介を賜りありがとうございます。また、尾身幸次さん、人類が直面する喫緊の課題を論じるこの場を設けてくださったことにお礼を申し上げます。

来たるべき世代に持続可能なエネルギーを安定的に供給する環境を構築することは、現在社会において最大の課題のひとつであり、同時に事業として最も有望な機会でもあることは言うまでもありません。この課題に応えるためには、私たちの世代の科学者、研究者、技術者たちを奮い立たせるような創意工夫が求められています。

今日、世界の人口70億人のわずか3分の1に満たない人々が、世界の一次エネルギー供給の3分の2以上を消費しています。しかし、将来、私たちがはるかに大きいエネルギー需要を満たさなければならなくなることは必至です。2050年までに世界人口は20億人増え、世界経済の規模は現在の3倍、あるいは4倍にすら膨らむと見込まれているからです。

同じ地球に住む仲間である何十億人という人々が、十分な量のエネルギーを低価格で利用可能にするため、是非私たちとともに高邁な努力に加わってくださるようお願いします。それは皆さんや私にとっては当然のことですが、他の人々もまたそれを必要とし、それを利用する権利があるのです。

では、来るべき90億人という人口のニーズを満たすにはどうしたらいいのでしょうか。特に、誰もがいつでもクリーンなエネルギーを使えるようにするのと同時に、経済的繁栄を享受できるようにするにはどうしたらいいのでしょうか。確かに、 省エネ対策によって需要の伸びを抑えることは可能です。しかし、それだけでは不十分です。私が思うに、あらゆる資源を利用した、安定的で確実で多様なエネルギー供給が必要です。すなわち、中心となる石油・ガス、それを補う石炭、原子力、水力、そして徐々に役割を広げつつある再生可能エネルギーへと選択肢を広げていかなければなりません。しかし、これらの不可欠なエネルギー源はそれぞれ問題点を抱えており、その克服のためには科学の力を頼るしかありません。

この意味でも、最適なエネルギーミックスによって、私が「3つのA」と呼ぶ、十分さ(Adequacy)、低価格性(Affordability)、許容可能性(Acceptability)を実現し、バランスを取る必要があるのです。私たちの課題は、より多くのエネルギー供給を開発するだけでなく、よりコスト効率の高く、よりクリーンなエネルギーを供給することでもあります。ご列席の皆様、そのためのカギは、エネルギー源を問わず適用できるような、革命的で、状況を根底から変えるようなテクノロジーの開発なのです。

そこで、サウジアラムコが「3つのA」を支えるために、多様なテクノロジーを利用して取り組んでいる事例を、簡単にご紹介します。

第1は、「十分さ」です。地球は、豊富な化石燃料に恵まれています。しかし、環境が厳しさを増すなか、新たな石油やガスを発見し、経済的に回収するためには、物理学や化学分野の徹底的な探求が必要です。それは、地中の深さだけに留まりません。たとえば、陸上地震探査と高精度貯留層モデリングおよびシミュレーション技術における第一人者である私たちは、電磁気学と高分解能重力センサーを地震探査イメージングと統合することにより、地表下の様子をより詳しく究明できるようになり、また、高性能計算をあらゆる面で適用できるようになっています。多くのツールのなかでもこれらの変革的ツールにより、さらなる炭化水素貯留層の位置を突き止め、既存の在来型石油の回収率を現在の世界平均の2倍以上に当たる70%まで引き上げることが可能になると期待をしています。

第2に、当社のテクノロジー・プログラムの多くは、分子当たりの価値創出量を最大化することを目指していますが、これはエネルギーの低価格化に寄与することが期待されています。私たちは、はるかに燃費が良く、よりクリーンで相乗効果を発揮するような燃料エンジン・システムを実現したいと考えています。このような取り組みのひとつが、製造が簡単で、したがって低価格を実現できるナフサのような燃料を使った先進的なエンジン燃焼方式です。私たちは最近、既存のエンジンに微調整を加えることにより、ディーゼル自動車が高セタン・ディーゼル燃料ではなくナフサで走行できることを、世界で初めて実証しました。

第3は、「許容可能性」です。化石燃料の環境負荷を軽減するため、私たちは、定置装置と移動体の両方の炭素排出源を対象とする、長期的な炭素管理プログラムを幅広い分野で推進しています。カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ(CSS)技術は、石炭火力発電所のような大規模排出源を対象としており、世界規模の炭素排出量を管理するためには不可欠です。移動体の排出源への対応は定置装置にくらべて難しいものがありますが、私たちは最近、高温吸着材を用いてCO2を回収する初期のプロトタイプ車の実走を行うに至っています。

その一方で、私たちの製造工程も取り組みの対象としています。また、私たちの事業にともなう環境負荷をさらに軽減するため、水と産業廃棄物を完全にリサイクルすることにより、石油・ガス生産活動に由来する産業排出物と廃棄物を完全になくすための努力を続けています。

私たちは、こうした努力、そして「3つのA」を実現するために講じているステップを誇りに思っていますが、どんな企業もこれらを独力で行うことはできませんし、行うべきではないと認識しています。

そのために、サウジアラムコはグループ内の研究開発資金を大幅に増やす一方で、オープンネットワーク・イノベーション戦略の一環として世界クラスの戦略提携を結び、また世界中にサテライト研究センターを設立しています。それに加え、当社のベンチャーキャピタル子会社が、先端技術企業への投資を始めています。

皆様、私は、分野や組織の境界を越えた、産業全体にまたがる共同研究の価値を強く信じています。なぜなら、化石燃料の回収率を高め、よりグリーンな燃料にするために、原子力発電所をより安全なものとして、使用済み燃料のより良い処分方法を見つけるために、そして、代替エネルギーと再生可能エネルギーの経済的実行可能性と競争力を高めるためには、科学界が持てる最大限の能力を引き出す必要があるからです。長期にわたり自動車の燃費を4倍に高めることや、すべての排出ポイントでCO2排出量を10分の1に削減することは、産業界の力を結集してはじめて実現できるものではないでしょうか。

これらはいずれも大胆かつチャレンジングな目標です。それどころか、常識に異を唱え、可能性の定義を書き換えるような新しい技術なくしては実現できません。だからこそ私たちは、連携と協調の精神を込めて、皆さまに提案しているのです。同じ地球に住む何十億人という人々が、皆さんや私にとっては当然のものであり、彼らもまた必要とし、利用する権利があり、量的に十分で、低価格かつ環境的に許容可能なエネルギーを利用できる時代を迎えるために、是非とも私たちとのコラボレーションをご検討くださるようにお願いします。明るいエネルギー新時代を実現する、この高邁な努力をともに推進していこうではありませんか。

ご静聴ありがとうございました。