サウジアラムコCEO、世界エネルギー会議で演説

サウジアラムコ社長兼CEO、カーリッド A. アルファレ(Khalid A. Al-Falih): 

クリストフ、ご紹介ありがとうございます。ご来賓の皆様、ご列席の皆様、おはようございます。

前回、モントリオールでお会いしてから3年経ちました。こうしてテグに集まった現在、世界のエネルギー業界を振り返ってみますと、かつてないほど健全で、ダイナミックで、そして自信にあふれています。実際、この3年という短い期間の変化には目を見張るものがあります。ですから、今こそ、現在の状況と今後進むべき道を吟味する絶好のチャンスと言えましょう。

まず初めに、現在、韓国には見るべきものが非常に多いことを申し上げたい。韓国の工業化、経済発展、そして困難に立ち向かう粘り強さは、世界を驚かせました。韓国は、品質とイノベーションの代名詞となり、自動車、スマートフォン、その他多くの製品は世界で受け入れられています。そして、世界中が韓国の文化とスタイルに関心をむけています。

今後20年以内に、韓国のエネルギー投資の総額はおよそ40兆ドルに達すると推定されます。

この旺盛な投資を支えているのは、韓国の人々のエネルギーです。これは、この会議の趣旨にも沿ったものと言えます。つまり、利用できるエネルギーを最大限に活用することが将来の成功の基盤となるということです。ご列席の皆様、世界のエネルギー業界がいま、歴史的な課題に直面しているのです。

今日、世界の人口70億人のうち3分の1にも満たない人々が、世界の一次エネルギー供給の3分の2以上を消費しています。残りの50億人については、現代的なエネルギー供給を利用できる程度は様々で、中には極端なエネルギー貧困に陥っている人たちもいます。

しかし、2050年までには世界の人口が90億人に達すると予想されており、このままでは地球に暮らす人々すべてに十分なエネルギーを供給することはできなくなってしまいます。こうした事態を招かないようにするためにも、クリーンエネルギーを、いつでも誰でも自由に使える世界を実現していかなければならないのではないでしょうか。 このことは、世界エネルギー会議(World Energy Council)のトリレンマ・レポート(Trilemma Report)にも反映されています。ですから本日は、地球上のすべての人が享受できるような持続可能なエネルギーの未来に至る道を探りたいと考えています。そして、それを実現するにはどうすればいいのか、について考えていきたいと思っています。

まず、エネルギー需要についてお話しします。2050年までに、世界人口が20億人増えると同時に、世界経済は3倍、ともすると4倍に拡大するると予測されています。人口の増加と豊かさの拡大は、移動量の増加、都市化の進行、そして耐久財と消費財に対する需要の拡大を意味します。それは、燃料、電気、化学品原料の消費を促し、ひいてはエネルギーの消費を促します。

しかし、すべての人に十分なエネルギーを供給しても、持続不可能な水準まで需要が増えるとはかぎりません。まず始めるべきことは、エネルギー集約性を高めることです。それにより、同様の経済成長を達成する場合でも、必要なエネルギー量を大幅に減らすことができます。効率性と需要管理に関してアグレッシブな目標を設定することにより、エネルギー消費を劇的に減らすとともに、エネルギーへのアクセスを拡大し、何兆ドルものコストを節約し、天然資源を保全し、環境パフォーマンスを高めることができるのです。

エネルギーの変換と多様な最終用途の両方で効率を高めることは難しい課題ですが、喜ばしいことに、すでに多くの国が思い切った手段を講じています。サウジアラビアでも事情は変わりません。政府は、産業、輸送、建設などの様々なセクターで、エネルギー最終用途の効率性を大幅に高める大規模なイニシアティブを発足させています。また、発電分野でも、効率性の低いプラントを退役させて、天然ガスへの移行を進めています。

しかし将来、世界中でエネルギー集約性が最適レベルまで達したとしても、将来の需要は現在よりはるかに大きくなります。そこで、その需要にどうやって応えるのかという問題が生じます。

まず注目すべきは、地球が膨大な埋蔵量の化石エネルギーに恵まれているということです。石油業界を見てみましょう。私たちはすでに累計で約1兆3,000億バレルを生産してきましたが、可採埋蔵量がそれだけ減少したわけではありません。現在の可採埋蔵量は1兆6,000億バレルと推定されていますが、これは現行の生産水準で推移しても、半世紀分の世界の石油生産量に相当し、推定埋蔵量としては過去最高の数字となっています。そして、探鉱・開発の拡大と回収率の向上により、この数字は今後も増え続けると見込まれています。

たとえばサウジアラムコでは、在来型石油の平均回収率を現在の世界平均の2倍以上に当たる70%に引き上げることを目指しています。ですから、現実問題として、資源が枯渇するとは考えられません。要するに、「ピークオイル説」は「地球平面説(フラットアース)」の同類になったということです。

なぜなら、地球上の液体燃料の総埋蔵量は、14兆バレルと推定されており、在来型資源と非在来型資源がほぼ半々の状態になっています。非在来型とは、タイトオイル、超重質油、ビチューメン、シェールオイルです。科学者と技術者の創意工夫をもって、この膨大な埋蔵量に挑戦すれば、この可採埋蔵量はさらに増える余地があり、増加し続ける長期的な石油需要を支えるためになくてはならないものになるでしょう。

実際に、石油需要の絶対量は今後20年間で日量2千万バレルも増加すると見込まれています。これは、世界の二大産油国であるロシアとサウジアラビアを合わせた現在の生産量に相当します。

同様に、世界の天然ガス埋蔵量は現在7,000兆立方方フィートを超えていますが、今後飛躍的に増える余地があります。というのも、非在来型天然ガス革命により、技術的に回収可能な世界の天然ガス埋蔵量はおよそ30,000兆立方フィートに拡大したからです。これを経済的に回収することができるなら、現行の生産水準換算で250年以上にわたって世界の天然ガス需要に応えることができます。

そして、私は、これらの埋蔵量が今後さらに伸びるだろうと期待しています。なぜなら、米国のシェール革命が世界的な広がりを見せているなか、多くの国々も膨大な非在来型資源の存在に注目しはじめているからです。皆様、非在来型資源開発に向けた積極的な動きは間違いなく始まっています。事実、サウジアラムコも、新たな北部地域の非在来型天然ガス開発計画を発足してからわずか2年で、1,000メガワット級発電所の開発に向けて天然ガスを供給できる体制が整ったことを、本日ここに発表いたします。これは、巨大なリン採掘・製造センターに電力を供給し、地域の開発と繁栄を促すものとなるでしょう。

しかし、これは石油と天然ガスが繁栄の原動力となるということの最新事例に過ぎません。石油と天然ガスは、世界でこれまで知られているなかで、効率性、利便性、経済性、信頼性が最も高いエネルギー源です。これらは、今後も長きにわたり、世界のエネルギー供給における主役であり続けるでしょう。

しかし、いくら量が豊富とはいえ、供給の主役である以上、エネルギーの未来を確固たるものにするためには、これらを慎重に、効率的に、そしてよりクリーンな形で利用しなければなりません。そのためには、原子力、水力、石炭、そして、ますます重要な役割を果たすと見込まれる再生可能エネルギーなど、他の資源と組み合わせて活用していくべきです。それについて、ご説明しましょう。

まず原子力ですが、残念ながら福島の事故によってその将来性に陰りが生じてしまいました。とはいえ、電力需要の大幅な増加が避けられない以上、原子力は今後も、重要な電源のひとつとしての地位を失うことはないでしょう。当然ながら、原子力の安全性に対する懸念と使用済み燃料の処分に関する問題に対処する必要があります。それらは、私たちの知恵を結集することによって対処できると、私は信じています。

石炭については、その豊富さと低コスト性を考えると、効率性と環境性能を高める遠大な技術に私たちが投資しさえすれば、エネルギー需要に応える役割をずっと担い続けることができると思われます。しかし、石炭は、かつてないほど豊富な天然ガスとの厳しい競争に直面しています。特に、石炭の炭素排出量が天然ガスの少なくとも2倍にのぼることを考えるとなおさらです。

これらの中心的エネルギー源のほか、再生可能エネルギーにも期待がかかります。ただし、その急速な発展を阻害している技術的障害と経済的障害が依然として残っています。その上、既存のグローバルなエネルギーシステムは巨大であり、代替エネルギーや再生可能エネルギーが稼働し始めていても、変化を遂げるには時間がかかるでしょう。

しかし、これらのエネルギー源を石油業界がライバル視しているという考え方は、ここで是非捨ててください。むしろ、サウジアラビアでは、王国を世界的なソーラーハブに育てることを構想しており、ソーラーエネルギーの研究、開発、利用に大々的な投資を行っています。

もちろん、だからといって、世界が、経済発展や財務上の必要を犠牲にしてまで、コストのかかる代替エネルギーを継続的に供給し続ける余裕があるわけではありません。むしろ、適切なエネルギーミックスが何かは、市場とテクノロジーに決定を委ねるべきです。

そこで私は、この会議に出席された皆さまが、世界に向けて統一的な見解を発信されることを期待しています。すなわち、すべてのエネルギー源が、長期的に必要とされるということです。

しかし、2050年に向けたエネルギー目標の達成は、「言うは易し、行うは難し」です。私が考える4つの主要な成功の必須条件について、説明させてください。

第1に、進歩的な、しかし現実的で説得力のある世界規模のエネルギー政策が必要です。

あらゆるエネルギー源が必要とされるのですから、安易に勝者と敗者を決めたり、選択的に助成を行ったり、実行不能な目標を設定したり、あるいは非現実的な規制や経済政策を適用したりするべきではありません。そうではなく、テクノロジーに投資するべきです。そして、そのテクノロジーが成熟期に入り、大規模な展開が可能であるという認識が共有され、そして繰り返しになりますが、市場を機能するのを待つべきです。

また、産業界でエネルギー源の安全性と環境性能のさらなる向上が必要とされている一方で、悪意はなくとも思慮の足りない政策により、様々な予期せぬ結果が生じた例は無数にあります。たとえば、輸送部門が不当に強調されていることを考えてください。米国の「最も環境に悪い」50の発電所は、いずれも石炭火力発電所ですが、米国の乗用車全体が排出するCO2のおよそ半分を排出しているにすぎません。また、バイオ燃料の義務化はどうでしょう。その結果、食品価格の上昇といったマイナスの波及効果が相次いで起きており、ライフサイクルの観点から見ると、環境への貢献が疑わしいだけになおさら、正当性を認めることはできません。

ですから、政策は、より厳正で全体的でなければならないのです。その点で、世界エネルギー会議は、大きな役割を果たせると思います。

第2の必須条件は、十分なエネルギーを安全かつ確実に生産し、新たな消費者に提供するためには、すべてのエネルギー源に十分かつタイムリーで長期にわたる投資を行わなければならないということです。今後20年のエネルギー投資の総額はおよそ 40兆ドル に達すると推定されます。これは、中国、EU、米国の年間GDPの合計とほぼ同じです。 これは驚くほど膨大な投資であり、継続的に資金提供するには、採算が取れ、確かに利益をもたらすプロジェクトでなければなりません。

それを実現するためには、世界のエネルギー市場が歩むべき道筋を確固たるものにすること、相対的に健全な価格、先に述べたような現実的な政策が必要です。また、市場の安定性も重要であり、この点でサウジアラムコは今後も中心的な役割を果たしていく所存です。過去2年間だけを見ても、私たちは、市場の供給ギャップに対応するために1.5 百万バレルを超える増産を行ってきました。今後も大規模な投資を続け、日量200万バレルを超える、世界最大の石油余剰生産力を維持していきます。

しかし、これは、バリューチェーン全体で私たちが行っている幅広い投資の一面に過ぎません。世界で最も統合されたエネルギー企業になるための取り組みの一環として、過去10年間にわたり年間設備投資予算を40億ドルから10倍の400億ドルへと増やしています。また、人材、研究開発、テクノロジーへの投資も増強しています。

そして最後になりましたが、私が挙げる第3の必須条件は、状況を根底から変え、先導するような研究開発とテクノロジーです。なぜなら、先に述べたように、私たちは化石燃料の回収率を高め、コストを削減し、よりグリーンな燃料を作り、原子力発電所の安全を強化し、使用済み燃料をより有効に処分し、代替エネルギーや再生可能エネルギー経済的実行可能性を高めて、その可能性を最大限に引き出す必要があるからです。

サウジアラムコは、それを推進しています。というのも、私たちの戦略目標は、2020年までに世界有数のエネルギー技術創出者となることだからです。そのために社内の研究開発費を大幅に増やす一方で、オープンネットワーク・イノベーション・モデルの一環として世界クラスの戦略提携を結んでいます。

また、化石燃料の環境負荷を軽減するため、私たちは定置装置と移動体の両方の炭素排出源を対象とする、広範囲にわたる長期的な炭素管理プログラムを推進しています。実際に、私たちは韓国科学技術院と共同で、炭素の回収と有用な製品へのリサイクルに取り組んでいます。それは、生産者にとっても消費者にとっても、炭化水素エネルギーの持続可能性を高めるものであり、まさに、今後もっと力を入れていくべきwin-winのコラボレーションと言えます。

というわけで、私が挙げる最後の必須条件は、コラボレーションです。努力の方向の食い違いによって、歴史的偉業を成し遂げるチャンスを台無しにしないようにしましょう。それは、何としても避けなければなりません。なぜなら、すべてのエネルギー源、すべての業界関係者、すべての政府、すべての学術研究機関、すべてのエネルギー関連団体が、世界のエネルギー村で力を合せて活動する必要があるからです。

世界のエネルギー・コミュニティーについて言えば、クリーンなエネルギーをいつでも使える状態が、少数の人々の特権ではなく、万人の権利であるということで合意が得られるのであれば、この会議はそれを目標として掲げ、また国連による将来の開発アジェンダの不可欠な要素となるようにするべきです。

ご列席の皆様、90億人の人々に十分かつ低価格で許容可能なエネルギーを提供することは、私たちにとって、また私たちの志を継ぐ人々にとって、生涯の課題となるでしょう。しかし、それはまた、私たち全員に最も感動的な機会をもたらしてくれます。ですから、私たち皆が、このテグで同じ屋根の下に集まっているということを噛みしめましょう。

そして、ホスト国である韓国のように、私たちが利用できるすべてのリソースを生かし、この部屋に集まった素晴らしい方々だけでなく業界全体の知恵を生かすことができれば、私たちも、持続可能なエネルギーの未来を実現して世界を驚かせることができると確信しております。そして、エネルギーを必要とし、利用する当然の権利を持つ90億人の人々が、それを得ることができるようになるのです。

ご静聴ありがとうございました。