サウジアラムコと日本: 揺るぎない関係

みなさま、こんにちは。私の大好きな世界の首都のひとつ、東京, 特に春の東京で皆様にお目にかかれることを嬉しく思います。ひとつ残念なのは、特に今年は見事であったといわれる満開の桜に間に合わなかったことです。暖かい歓迎をいただきありがとうございます。皆様がたの会長、そして私の親し友人である米倉さんとご一緒できることも嬉しい限りです。

日本経団連は過去60年余にわたり、お国の経済の発展と、その企業の国際的競争力の向上に重要な役割を果たされてきました。そして本日此処にご出席の皆様がたの会社は、世界に高品質な製品、優れたサービス、そして革新的なテクノロジーを提供されることにより、世界をより住みよい場所に変えてこられました。皆様がたが規範とされる価値観、たとえば勤勉さ、規律の正しさ、誇り、パートナーシップなどに、サウジアラムコは敬意を表し、また強い共感を覚えます。申すまでもなく、このような根本的な価値観が、日本を世界に例のない成功に導いたのです。

日本企業は、長い年月にわたり、サウジアラムコと日本のパートナーシップの中核であります。私どもがアジアにおける最初の海外オフィスを開こうと決断した場所は東京でした。それは日本のカスタマーの皆様へのコミットメントを守るため、そして日本企業とのパートナーシップへの予感を感じたたためでもあります。しかし、私どもと日本との長い関係はビジネスだけにとどまりません。最も大切なことは人間関係、人と人とのつながりなのです。

たとえば、日本に来た何十人ものサウジアラムコ留学生たちです。彼らは数年にわたり日本の大学でアカデミックな勉強や専門家としての規範を履修するだけでなく、日本の社会、豊かな歴史と伝統、言語、価値観などを学びます。

彼らは「継続は力」という日本の古い諺(ことわざ)を学んだはずです。この教訓をみごとに実証されたのが、昨年の悲劇的な自然災害に対応された数多くの日本人、ローカルコミュニティー、隣り組(となりぐみ)の人々でした。私たちの心は、昨年の地震と津波の被害、そしてそれに起因する福島原子力発電所事故の復旧に尽力される日本の皆様と共にありました。膨大な物的損失もさることながら、それは失われた多くの人命の尊さと比較する術(すべ)もありません。私は震災後、何度か日本を訪れました。そのたびに、皆様がた日本人の固い決意、意思の強さ、そして団結力に感銘を受けました。

日本は第二次大戦の廃墟から立ちあがり、世界のコミュニティーの第一線に返り咲きました。そして日本は先進工業諸国から羨まれる製品を作り、世界のスタンダードとなる品質革命をリードしてきました。現在、この偉大な日本は再度、これまでとは異なる数々の難問に直面しています。しかし、本日ここにいらっしゃる皆様は、日本の新しいルネッサンスのアーキテクト、設計者でいらっしゃいます。

私の最大の関心は、このような日本とサウジアラビアが共有する、固い絆と優れた価値観を通じ、如何にその強固なリレーションシップをさらに強め、両国の将来の利益に資することができるか、ということであります。

その前に、現在の世界の石油市場を、われわれサウジアラムコがどう見ているかに触れておきたいと思います。これは、皆様がどのような分野で仕事をされていようとも、われわれ全てにかかわる問題であります。

厳しい世界経済情勢のもと、石油需要が「下げ」の圧力を受けている中で、石油市場のファンダメンタルズは健全であり、在庫は適正、供給は潤沢であると言われ続けてきました。事実、今年の石油需要は日量100万バーレル以下のつつましい伸びに留まるであろうというのが、現在のおおかたの予測であります。もしそうであれば、価格はもっと安定し、穏当であるはずです。しかし、激動するジオポリティカルな情勢、通貨の乱高下、資本市場の思惑、等々が短期的な見通しを複雑にし、原油価格を押し上げています。マーケットはこの不確実性にプレミアムを払っている、と私は繰り返し述べてきました。もしサウジアラビアが、かなりの規模の原油余剰生産能力を維持のための、継続的な投資をしてこなかったら、プレミアムはさらに高騰していたでしょう。

このような熱い議論を繰り返していしているうちに、先週、起こるべきことが起こりました。ジオポリティカルな緊張が緩み、弱含みな経済環境が顕在化した結果、価格は約6%下落し、ここ数ヶ月の最低レベルとなりました。健全なファンダメンタルズが機能したのです。この価格修正は歓迎すべき展開です。われわれは皆、安定した市場を望んでいます。穏当な原油価格は世界経済の回復をサポートし、増加するエネルギー供給への継続的投資を促進するからです。

日本のエネルギー需要へのサウジアラムコの対応を申し上げます。日本は、変わることなく、サウジアラムコのコア・マーケット、すなわちわれわれが深くかかわっている中核的な市場であります。

日本は昨年の悲劇的な自然災害からの復興に尽力をされ、その世界的な競争力に再度の磨きをかけようとされています。その日本にとって、エネルギー・セキュリティー(エネルギー安全保障)こそが鍵となるでしょう。 われわれは、いつでも皆様のお役に立てるパートナーであり続けます。皆様はわれわれにとって最重要な顧客のひとつであり、皆様のご要望に私どもは最優先で耳を傾けます。一例を申し上げます。たとえば、2011年、われわれは日本に日量120万バレルの石油を供給しました。日本の輸入の約30%にあたります。これを平均すると、昨年、原油、石油製品、LPGを積んだタンカーが30時間ごとに一隻、サウジアラビアから日本に向けて出港したことになります。この目に見えないエネルギー供給のパイプラインが常に日本のために存在し続けるでしょう。皆様、どうぞご安心ください。

また、この高度な信頼関係をより強固なものとするため、われわれは更なる一歩を踏み出しました。サウジアラムコは沖縄に4百万バレル余の原油貯蔵能力を確保しました。これは日本、そしてアジア市場へ、より柔軟な、そして即応性のある石油の供給を行うためであります。

一方、われわれは日本企業への投資をさらに推し進める所存です。われわれは昭和シェル石油の不動の株主であります。われわれのパートナーシップが石油にとどまらず、新たに設立した子会社ソーラーフロンティアを通じて革新的なソーラーエネルギー・テクノロジーの分野に果敢な進展をみせているのは嬉しい限りです。この一環として、サウジアラムコとソーラーフロンティアの参加のもとに、王国の東西両岸でパイロット・プロジェクトが実施されています。

また、紅海沿岸では、住友化学との合弁事業、ペトロラービグのパートナーシップが、ワールドスケールの石油精製・石油化学統合事業として一段上のレベルに進もうとしています。両社の承認が得られれば、このフェーズII(ツー)拡張計画が動き出します。この大規模拡張計画により、ペトロラービグは世界最大規模の、そして最も複合的かつ統合された石油化学コンプレックスとなるだけでなく、事業の将来に向けての収益性を高めます。

私はこの場をお借りして、サウジアラムコ、住友化学両社の取締役会、中でも、この先見性のある事業のために私どもと手を組まれた米倉さんの先見性とリーダーシップに敬意を表したいと思います。この事業への投資の決断は、住友化学にとっては東アジア以遠での最初の大規模プラント建設、そしてサウジアラムコにとっては、その石油精製資産と石油化学を統合する事業への第一歩、という新たな地平線を切り拓いたのであります。

申すまでもなく、住友化学はアジア各地で数々の事業を果敢に成功させてこられました。たとえば、石油化学事業がみごとに花開いているシンガポールを訪れるたびに、人々が米倉さんを同国の石油化学産業の「育ての親」として尊敬する声を耳にいたします。将来、ひとびとは振り返って、ペトロラービグへの投資を、住友化学とサウジアラビア王国の石油化学事業の大きな転換点であった、そして日本とサウジアラビアの人々、両国間のパワー・オブ・パートナーシップの確固たる事例であったと評価するでしょう。

もちろん、ペトロラービグは80年代の初頭に始まった日本によるサウジアラビアの化学産業への投資の長い歴史の中の最近の事例であります。それまでにも三菱化学などの企業が活発に投資をされ、JBIC(ジェイビック=国際協力銀行)は多数のプロジェクトに主要な投融資を行ってこられました。

詰まるところ、これらのパートナーシップこそが、われわれが共有する相互コミットメンントの精神の証左であります。そして、今こそが、このパワー・オブ・パートナーシップを、現在サウジアラビアが持っている広範な戦略的チャンスの域に一歩推し進める好機だと思います。

これまでの日本からサウジアラビアへの投資対象は、基礎産業が主体でした。もちろん、この分野への投資は今後も歓迎されます。しかし日本の企業には、これまでのエネルギーや化学工業にとどまることなく、より広範な分野のダウンストリーム・バリューチェーンに大きなビジネスチャンスが期待されます。サウジアラビアが持っている、日本企業にとっての四つの大きな魅力、それをご説明いたします。

第1のポイントは経済性です。サウジ経済は中東・北アフリカ地域で格別に大きく、昨年の成長率は6.5%と世界の最高のレベルです。この健全な成長は今後も続くでしょう。これは世界経済の現状をみるに、特筆に値します。人口の半分以上が25歳以下のサウジには、若く、意欲的な働き手がいます。サウジ政府は次代を担う若者たちのトレーニングに懸命な努力をしています。サウジへの投資やそれに関連する法的環境は先進的かつ、優れて企業に好意的であります。サウジには個人所得税がありません。法人税は柔軟で20%に過ぎません。サウジ・リヤルは世界でも最も安定した通貨のひとつです。利益の本国送金に規制はありません。そして、その国内マーケットは豊かさを高める2,700万人の消費者に支えられ、4億人強が住む中東・北アフリカ地域の中央に位置しています

このような力強いサウジの経済のパワーは、ますます複合性を増しながら高成長するマーケットと、企業に好意的なビジネス環境の中で教育された比較的低賃金の労働力を日本の会社に提供いたします。

第2のポイントは 「イネーブラー」、原動力へのアクセスがきっちりと整っていることです。サウジには貴重な資源が豊富にあり、長期にわたり低コスト体制の事業が可能です。ご存知のとおりサウジでは潤沢な石油、ガス、化学製品や競争力のある主要ユーティリティーの供給が可能です。その上、ワールドクラスのアルミニウム、リン酸肥料や鉱物関連産業が立ち上がりつつあります。また、サウジには十分な資本の流動性とソフトファイナンス、広範に及ぶ近代的なインフラと東西を結ぶ戦略的な立地があるのです。

第3のポイントは「オポチュニティー」、投資機会です。サウジアラビアは今後、何年にもわたり、王国経済の発展と多様化のために何千億ドルという投資を行ってゆきます。その対象はインフラ、住宅建設、教育、ヘルスケア、通信やIT、そしてコンシューマーグッズの生産、このすべてが投資を待ち望んでいるのです。

最も大切なのは、サウジ政府とサウジアラムコが、最終製品、半製品を生産する広範な経済分野のダウンストリームに、付加価値を高めるコンバージョン産業を創設しようとしていることです。このような競争力のあるイニシャティブは、王国とサウジアラムコが展開している産業クラスターや産業バリュー・パークに顕著であります。東洋紡と伊藤忠主導のコンソーシアムによる海水淡水化用メンブレンの生産、Jパワーシステムと丸紅による海中ケーブル、そして周知のいすゞ自動車によるトラック組立工場 の建設など、この種の投資が開始されていることを嬉しく思います。

R&Dやイノベーションの分野にも協力的パートナーシップの機会があります。サウジアラムコが進めようとしている石油ベースの革命的燃料の開発と、日本の自動車メーカーが順調に開発を進めている新世代エンジンは素晴らしいシナジー、相乗効果をあげる好例となるでしょう。

戦略的な日本の投資家の皆さんにお勧めする4つ目のポイント、サウジにはビジネスのスタートダッシュの決め手となる有利な条件が幾つもビルトインされていることです。すでに日本はサウジにとって最大の投資国です。ですから、サウジのマーケットのことは、よくご存知でしょう。長い歴史に裏づけされた日本のブランドはサウジ消費者や企業から最大の敬意と賞賛を得ています。サウジ中で、日本の自動車を買うにはウエイティングリストが待ちうけ、日本製の電気製品にはプレミアムがつき、日本の技術者は中東各地で尊敬を集め、日本の工具はサウジの産業、建設現場での必需品となっています。「メイドインジャパン」はサウジ消費者にとってトップ・クオリティー、トップ・バリューの代名詞であり、その成功は目先の効いた宣伝によるものではなく、長年にわたる性能と信頼性の結果なのです。

サウジアラビア王国の目指すゴールは、広範なダウンストリームのバリューチェーンへの投資により、若者たちにやり甲斐のある仕事を与え、この国の経済を知的産業に基づく方向に導くことであります。日本企業には技術と、人的能力と、世界的なビジネス・ポジションがあります。一方、サウジには競争力のある立ち位置、そして発展へのニーズがあります。これは素晴らしい組み合わせだと申せましょう。

皆さま、この複雑化し、競争の絶えない世界で、日本のような有能な国が直面している問題は、チャンスと同義語であると私は思います。日本は創造力に富み、勤勉な労働力を持ち、ここに居られる皆様がたの会社のような偉大な企業を持っています。

要約すれば、現在われわれが必要としているものは、日本の産業にとっては新しいスプリングボードとなり、同時にサウジアラビアの発展のニーズに合致する、互恵のパートナーシップなのです。これこそが現存する両国の産業やエネルギー協力の絆をいっそう強固なものにするでしょう。

その達成のためには、この千載一遇の好機を果敢に、かつあらゆる知恵を絞って利用しなくてはなりません。単なる商取引や単発の投資ではもはや不十分です。皮算用を超えたえた投資、互恵のパートナーシップ、そして目前にあるチャンスを捉える勇気が必要なのです。経団連、そして皆様、どうぞサウジアラムコと、サウジのビジネス・コミュニティーと、そして両国の関係省庁と手を携え、われわれのパートナーシップをさらに高め、日本のこれから長きにわたる再生に貢献をしようではありませんか。

お話を終えるにあたり私は、この不確実性の時代にあって「日本の最良の日々はこれからだ」とあえて申し上げたいと思います。それは、私どもサウジアラムコに働く全ての者が、日本の皆さまの団結力と決断力、そしてこの国のビジネスセクターの能力とビジョンが、いかに卓越したものであるかを知りつくしているからです。

皆様のご臨席とご清聴に感謝をいたします。ご質問があれば喜んでお答えをいたします。ありがとうございました。