米国ヒューストンCERAウィークでのアラムコ社長兼CEO アミン・ナセルの挨拶

  • 消費者主導によるエネルギー移行実現への転換

ダンさん、ありがとうございます。皆さま、おはようございます。

ヒューストンに再び戻ってきまして、特に今年はこの偉大な都市でアラムコ米国本部設置50周年を迎え、喜びもひとしおです。

今日、エネルギーの未来、そして世界的エネルギー移行における我々の役割が地政学上かつてないほどに重要視されています。

しかし、この点における議論はもはや、ダボス会議やワシントンで片付くものではなくなりました。なぜなら、この問題には世界中のエネルギー消費者80億人の希望と願いが関わっているからです。

そして現在の移行戦略による影響は、限られた一部ではなく消費者の大多数に及んでおり、各国の消費者からのメッセージは次第に重みを増して、もはや看過できなくなっています。

彼らが炭素排出量の少ないエネルギーを望んでいることは私たちも承知しています。全く正当な願いです。

しかし、その必要とするエネルギーを入手するのに苦労している人も少なくありません。

そして昨今のエネルギー危機から、供給が保証されているわけではないことが明らかになり、彼らは今後における十分なエネルギーの安定供給を危惧しています。

まとめますと、消費者メッセージの全体像は次のようになります。地球を守り、かつ自らの財布にやさしいエネルギーを求める一方、必要な供給量や自らの生活に及ぼす影響を最小限に抑えたい。

残念ながら、現在の移行戦略はこうした消費者からの幅広いメッセージを見過ごしています。

炭化水素を代替エネルギーに置き換えることにほぼ完全に集中しているのです。つまり、CO2排出量の削減ではなくエネルギー源を問題視する方に偏っているのです。

そして、私たちが世界の繁栄に大きな役割を果たしているにも関わらず、この業界を移行の宿敵と位置付けています。

しかし、スローガンは解決策ではありません。悪者扱いをすることは対話とは言えません。また、姿勢を示すだけでは、皆が共有する気候変動問題に対して必要な前進をすることはできません。

事実、実世界において現在の移行戦略は5つの過酷な現実の壁に阻まれて、数多くの局面で実効性のなさを露呈しています。

第一の現実は、世界が過去20年でエネルギー移行に9兆5千億ドル以上を投資してきたにもかかわらず、代替エネルギーによる炭化水素の実質的代替を実現できていないことです。

現在、風力と太陽光発電を合わせても、世界のエネルギー供給における割合は4%に届いていません。

一方、電気自動車の普及率は3%未満にとどまっています。

3%や4%というのはゼロではありませんから、代替エネルギーと電気自動車ともに、その進歩は歓迎します。

しかし3%や4%というのは、十分とは言えないのも事実です。

それに比べて、21世紀に入ってからの世界のエネルギー構成における炭化水素の割合も、83%から80%とほぼ横ばいの推移です。

果たして、こうした数字だけを見ると、エネルギーについての実際の状況は見えてきません。実は、この同じ期間で炭化水素の絶対的需要が石油換算日量平均約1億バレルも増加したのです。

実際、世界の石油需要は今年後半に過去最高を記録すると予想されています。

そして発展途上国における需要が著しく増大する可能性があります。発展途上国の現在の年間石油消費量は一人当たり1バレル弱から2バレル未満の範囲です。

それに比べてEUは9バレル、米国は22バレルとなっています。

この差が、2045年にかけての需要増大見込みの重要な根拠となっています。

ガスも同じく世界のエネルギーを支える中核であり続けています。その需要は今世紀に入ってから約70%増加しています。

石炭でさえ、過去最高記録を更新しています。

一部の人が描く理想の未来像から遠くかけ離れています。

さらには、彼らですら石油・ガスに対する安全保障の重要性を認め始めているのです。

こうしたすべてのことが、石油・ガス需要が今後、2030年と言わずその先までも増え続けるだろうという見解の信憑性を高めています。

どうも、誰一人この移行戦略にすべてを賭けようとはしていないようです。

厳しい現実の2点目は、代替エネルギーが温室効果ガス排出量低減に貢献してはいるものの、炭化水素からの排出量削減に世界が真剣に取り組めば、より効果的な成果を上げうるという事実です。

一例を挙げれば、過去15年間における効率改善のみを見ても、世界のエネルギー需要を石油換算日量平均9千万バレル近く削減しています。

風力や太陽光発電による同様の効果は1,500万バレルの代替に過ぎません。

では、米国における発電事情はどうでしょうか。

石炭から再生可能エネルギーへの転換による効果は確かに認められます。

しかし、CO2排出量削減のほぼ3分の2を占めているのは石炭からガスへの転換による効果です。

これらの例から見えてくるのは、エネルギー源を変えることではなく、温室効果ガス排出量の削減にじっくり取り組むことにより、はるかに大きな恩恵を得られる可能性があるということです。

3つ目は、現在数ある代替エネルギーの多くが、世界人口の大半にとっては高価すぎるという現実です。

水素を例に挙げると、その長期的潜在性は極めて大きいものの、その価格はいまだ石油換算1バレルあたり200ドルから400ドルの範囲です。それに対して石油・ガス価格はそれよりもずっと安価です。

一方電気自動車については、補助金がなければ内燃機関自動車の平均価格より最大50%高くなります。

補助金も永遠に出し続けるわけにはいきません。

また、消費者はその費用対効果に対して疑念を持っているため、大規模展開がなかなか進んでいません。

第4の現実は、今後のエネルギー移行のシナリオを描く主体がグローバルサウスになりつつある点です。

グローバルノースとの石油消費量における格差については、すでに述べたとおりです。

グローバルサウスが豊かさを手に入れていけば、エネルギー需要も必ず増えます。しかし、グローバルサウス諸国にとって、高価なエネルギーソリューションにはなかなか手が届きません。

しかし、世界人口の85%以上を占めるこうした国々に対して行われている再生可能エネルギーへの投資は5%に満たないのです。

これら4つの現実が、世界中で政論、世論が変化しつつある事実を裏付けています。

さらにこれらから、第5の厳しい現実が見えてきます。それは、移行戦略のリセットが緊要課題であることです。そこで私は、以下を提案します。

石油・ガスを段階的に廃止するという幻想は捨てて、エネルギー需要についての現実的な仮定を反映した石油・ガス産業への適正な投資へ方向転換すべきです。

取り組むべきはガス排出量削減のさらなる努力、燃料効率向上の追求、そして低炭素ソリューションの導入です。

そして、新しいエネルギー源やエネルギー技術については、十分に発達し、経済競争力や必要なインフラが整い次第、順次導入しながら、今申し上げたあらゆる努力について適宜調整していくべきだと考えます。

最後に、エネルギー移行と並行して、素材の移行による極めて大きなプラスの潜在性にも触れたいと思います。

スチールやアルミニウム、セメントなどの従来型材料は、世界のCO2排出量の実に4分の1近くを占めていますが、こうした材料の需要は2060年までに倍増すると見込まれています。

従来型材料を上回る耐久性を持ち、排出量を抑えた代替材料に置き換えない限り、世界のネットゼロの目標達成は実現しないでしょう。

皆さん、移行の取り組みが暗中模索であり、方向性に欠き、先が見えていないということを私たちは長年主張してきました。

移行努力の負担を実際に感じるにつれ、消費者側も私たちの主張が正しいことを認めだしています。

彼らが要求するのは、経済的に実現可能で安定性と柔軟性を伴い、なおかつ気候変動への取り組みを支える移行です。

消費者が示すこの明確な指標は、多彩なエネルギー源、多様な速度、そして現実への多次元のアプローチへと移行の重心を動かそうとしています。

そしてすべての人々の希望と願いが本当に実現するよう、時代が求める方向へと舵を切る時が来ていると信じます。

ご清聴ありがとうございました。

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